事例から学ぶOTC医薬品〜下痢止め薬編〜
登録販売者の講師を行っている株式会社東京マキア代表・村松早織先生が解説するOTC医薬品別の接客・対応方法をご紹介。よくある具体的な事例を交えながら、お客様の症状別での接客・対応方法を学べるコンテンツを特集します。
2021年05月25日
事例から学ぶOTC医薬品〜下痢止め薬編〜
- 【お客様の背景】
- 30代男性、会社員。過敏性腸症候群と診断され、薬を服用中である。処方薬が切れてしまったことに気づかず、会社の休み時間にドラッグストアに駆け込んできた。
お客さま: すみません、下痢止めはどこですか?
登録販売者: いらっしゃいませ。こちらでございます。よろしければ、お薬を選ぶのを手伝いましょうか?
お客さま: お願いします。過敏性腸症候群の薬が切れてしまったのに気づかなくて...病院に行く時間がないのですが、代わりになるものはありますか?
登録販売者: そうでしたか。医師に過敏性腸症候群だと診断されているということですね?
お客さま: そうなんです。
今現在、過敏性腸症候群の適応を持つOTC医薬品は「セレキノンS」のみです。「セレキノンS」は医師の診断を受けている人に限って使うことができるため、診断されているかどうかを確認します。
処方薬について把握するときは、おくすり手帳を確認した方が確実です。
登録販売者: 現在服用中のお薬の名前は分かりますか?もしおくすり手帳などがあれば助かります。
お客さま: 今日はおくすり手帳を持っていないのですが、スマホに薬の情報をメモしてあります。あ、ありました。セレキノン錠100㎎です。
OTC医薬品は決められた効能・効果や用法・用量に従って服用する必要があります。処方薬と服用量が異なる場合は、かかりつけの医師・薬剤師に相談するか、薬剤師が常駐している店舗では、薬剤師の指示を仰ぎます。
登録販売者: そちらでしたら、「セレキノンS」という同じ成分のお薬がございます。セレキノン錠100㎎は1回何錠を1日何回飲まれていますか?
お客さま: 1回1錠を1日3回です。
登録販売者: では、「セレキノンS」と同じ服用方法ですね。
お客さま: そうですか。いやー、ほっとしました。
登録販売者: 来週には病院に行けそうですか?
お客さま: 今週末、土曜日に行くつもりでいます。
登録販売者: 承知いたしました。お大事になさってください。
過敏性腸症候群(IBS)とは
過敏性腸症候群は、大腸の腫瘍や炎症など、不調の原因となるような病気がないにも関わらず、お腹の痛みや不快感、便秘や下痢などの便通異常が数ヵ月以上続く消化管の病気です。20代から30代に多く、日本人のおよそ10%の人がこの病気であると言われています。原因は分かっていませんが、ストレスとの関連性が高い病気としてよく知られています。
過敏性腸症候群の治療
生活習慣の改善がもっとも重要視されます。暴飲暴食や脂肪分の多い食事を避け、規則正しい食生活を心がけます。また、適度な運動や睡眠、趣味の時間を作るなどして、ストレスをためないことが大事です。
治療薬としては、整腸剤(ビオフェルミンなど)、コロネル、イリボー、抗コリン薬などさまざまなものがありますが、今回の事例に出てきたセレキノンもその1つです。
セレキノンSとは
有効成分は、消化管運動調律薬のトリメブチンマレイン酸塩です。消化管平滑筋と、その動きを調節する自律神経系に働きかけて、腸の運動を正常化します。このお薬のユニークなところは、腸の動きが活発になっているときにはそれを抑制し、逆に低下しているときには促進することで、腸の動きを調整するところです。これにより、過敏性腸症候群には「下痢型」「便秘型」「混合型」などさまざまなタイプがありますが、いずれのタイプにも効果を発揮します。
また、こちらの商品は、以前に医師の診断・治療を受けた人に限って使用することができます。すなわち自己判断で「過敏性腸症候群かもしれない」とおっしゃっているお客さまには、販売することができません。なぜなら、繰り返す便通異常は、過敏性腸症候群だけでなく、大腸ガンやクローン病など重大な病気の可能性があるからです。このようなお客さまには、医療機関への受診を促すようにしましょう。
同じ成分で効能・効果が違う商品に注意
トリメブチンマレイン酸塩を主成分としている商品には、2つあります。いずれも田辺三菱製薬(株)の商品で、1つは前述した「セレキノンS」、もう1つが「タナベ胃腸薬〈調律〉」です。成分や効能・効果は次の通りです。
成分 | 効能・効果 | |
---|---|---|
セレキノンS |
|
過敏性腸症候群の次の諸症状の緩和:腹痛又は腹部不快感を伴い、繰り返し又は交互にあらわれる下痢及び便秘 |
タナベ胃腸薬〈調律〉 |
|
|
OTC医薬品の適正使用を推進しましょう
OTC医薬品は、あらかじめ決められた効能・効果の範囲で、用法・用量どおりに使用すること(適正使用)が大切です。その大きな理由として、薬の服用後に健康被害が出てしまった場合、「副作用被害救済制度」を利用することができますが、この制度の利用は「薬を適正使用していること」が基本となるからです。本来の薬の使用方法から逸脱している場合、何かあった時にお客さまが困る可能性があるということです。
タナベ胃腸薬〈調律〉には、過敏性腸症候群や下痢、便秘などの腸の症状に関する効能効果が入っていないため、お客さまにご案内する時には注意するようにしましょう。他にもアレルギー症状や一時的な不眠症状に使われるジフェンヒドラミン塩酸塩など、「同じ成分が別の効能・効果で販売されている商品」にはいくつかあります。同様に注意するようにしてください。
※本記載内容は2021年5月時点の情報となります。
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