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ウクライナ・ロシア情勢におけるヨウ素剤の需要増について(登録販売者が知っておくと便利なこと)

登録販売者の講師を行っている株式会社東京マキア代表・村松早織先生が解説するOTC医薬品別の接客・対応方法をご紹介。よくある具体的な事例を交えながら、お客様の症状別での接客・対応方法を学べるコンテンツを特集します。

ウクライナ・ロシア情勢におけるヨウ素剤の需要増について(登録販売者が知っておくと便利なこと)

2022年2月24日、ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始しました。そして、その日のうちにロシア軍がチェルノブイリ原子力発電所を占拠し、3月4日の未明には、欧州最大規模の原子力発電所とされるザポリージャ原子力発電所周辺で、ロシア軍の攻撃による火災が発生しました。

これにより近隣諸国のポーランドなどでは、薬局などでの「安定ヨウ素剤」の売り上げが急増しており、この影響は東欧のブルガリアやチェコにまで広がっているようです。安定ヨウ素剤は、原発事故の際に服用するお薬です。

参考:毎日新聞「ウクライナ周辺国でヨウ素剤の売り上げ急増 露軍の原発制圧受け」
https://mainichi.jp/articles/20220307/k00/00m/030/084000c

こうした事態は日本ではまだ顕著に見られていませんが、不安に思ったお客さまから薬局やドラッグストアに問い合わせが来ることも予想されます。そこで今回は、登録販売者のみなさんも知っておくと役に立つ安定ヨウ素剤について取り上げます。

〈ウクライナと周辺諸国の位置関係〉

ウクライナと周辺諸国の位置関係

原発事故と安定ヨウ素剤の概要

● 原発事故によって起こること
原発事故が発生すると、放射性ヨウ素を含む核分裂生成物が放出されることがあります。原発事故で放出される放射性物質にはこれ以外にも様々なものがありますが、放射性ヨウ素は特に健康への影響が大きいとされるものの1つです。放射性ヨウ素が口から体内に取り込まれると、甲状腺に選択的に集まります。この影響により、数年から数十年後に甲状腺がんなどを発症するリスクが上昇し、その影響は年齢が低いほど大きいです。

● 甲状腺とヨウ素の関係
甲状腺は、のどにある小さな臓器です。甲状腺は、食べ物に含まれるヨウ素を原料にして、甲状腺ホルモンを合成しています。甲状腺ホルモンには、新陳代謝を促進する作用があり、体の発育を促します。しかし、通常のヨウ素の代わりに放射性ヨウ素が甲状腺に取り込まれると、甲状腺がんの発症リスクが増加するのです。

〈甲状腺の位置〉

甲状腺の位置

● 「安定ヨウ素剤」とは
「安定ヨウ素剤」とは、放射性でないヨウ素を内服薬としたもので、主成分はヨウ化カリウムです。原発事故により環境中に放出された放射性ヨウ素が甲状腺に取り込まれる前に、安定ヨウ素剤を服用します。すると、血中のヨウ素濃度が高くなり、甲状腺ホルモンの合成が一時的に抑えられ、血中から甲状腺へのヨウ素の取り込みが抑えられます。

● 大人への「安定ヨウ素剤」の効果
これについては、原子力規制庁の資料に詳しく記載があるため、該当部分を抜粋します。

②40 歳以上の者への効果
原爆被爆者については、成人期以降に被ばくした者における甲状腺がんの発症について統計的に有意なリスクの上昇は確認されておらず [23]、チェルノブイリ原子力発電所事故の被災者については、甲状腺がんの発症のリスクの上昇が明らかであるのは18歳未満の者である [19, 24, 25]。また、 WHOガイドライン2017年版においては、40歳以上の者への安定ヨウ素剤の服用効果はほとんど期待できないとされている [2]。

引用:原子力規制庁:安定ヨウ素剤の配布・服用に当たって(P.4)
https://www.nsr.go.jp/data/000024657.pdf

ただし、服用を優先すべき対象者として、未成年者(乳幼児を含む。)のほか、妊婦、授乳婦も含まれていることに留意します。

薬局・ドラッグストアで問い合わせのあった時の対応

● 国からの指示に従う
安定ヨウ素剤が本当に必要な状況になった場合、国や地方自治体から服用の指示が出ます。また、原子力規制庁の資料には、自己判断で安定ヨウ素剤を使用して発生した健康被害において、「医薬品副作用被害救済制度」の対象外となる可能性があることを示しています。資料より、該当部分の文章を以下に引用します。

安定ヨウ素剤の添付文書の「用法・用量に関連する使用上の注意」には、「①放射性ヨウ素による甲状腺の内部被ばくの予防・低減を目的」として、「②国等の指示に従い服用すること」と記載されているので、国又は地方公共団体の指示に従わず自己判断等で服用して健康被害が生じた場合は、 「②使用方法」が適正ではないため、本制度の対象外となる可能性がある。

引用:原子力規制庁「安定ヨウ素剤の配布・服用に当たって(P.6)」
https://www.nsr.go.jp/data/000024657.pdf

〈例:ヨウ化カリウム内服ゼリー16.3M「日医工」の添付文書〉

例:ヨウ化カリウム内服ゼリー16.3M「日医工」の添付文書

● イソジンなどのヨウ素系殺菌消毒薬では代用できない
2011年3月に発生した東日本大震災により福島第一原子力発電所事故が起こりましたが、その際、安定ヨウ素剤の代わりに、「ヨウ素を含むOTC医薬品や食品を摂取することで甲状腺がんが予防できる」という誤情報が発生しました。
ヨウ素系殺菌消毒薬には、ヨードチンキ、うがい薬、のどスプレー、消毒用せっけんなど、様々な商品があります。いずれの商品にも、ヨウ素以外の成分が多く含まれ、体に有害な作用を及ぼす可能性のある物質も含まれます。また、これらの商品はヨウ素含有量が少ないため、放射性ヨウ素が集まるのを抑制するには不十分です。
また、わかめやコンブなど、海藻を始めとする食品はヨウ素を含みますが、安定ヨウ素が一定ではいため十分な効果を得られるかは不明であり、また、吸収までに時間がかかるという理由で推奨されていません。

参考:独立行政法人 放射線医学総合研究所「ヨウ素を含む消毒剤などを飲んではいけません -インターネット等に流れている根拠のない情報に注意-」
https://www.nirs.qst.go.jp/data/pdf/youso-3.pdf
独立行政法人 放射線医学総合研究所

今後の情勢の中で、万が一、登録販売者のみなさんへ安定ヨウ素剤について問い合わせがあった時は、適切な情報をお客さまにお伝えするようにしましょう。

執筆者:村松 早織(薬剤師・登録販売者講師)

執筆者:村松 早織(薬剤師・登録販売者講師)
株式会社東京マキア 代表取締役
登録販売者や受験生向けの講義を中心に事業を展開

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