【現役ドラッグストア店長直伝】濫用等のおそれのある医薬品販売<登録販売者のキャリア>
【現役ドラッグストア店長直伝】濫用等のおそれのある医薬品販売<登録販売者のキャリア>
2023年3月に医薬品販売に関するルールが変更され2か月が経過しようとしています。時に風邪薬販売時に大きな影響が出ていますが、登録販売者の皆さま、店舗でのオペレーションは慣れてきた頃でしょうか?
今回は否定的な声もある「濫用等のおそれのある医薬品」の改正における風邪薬販売のお声掛け、確認作業での現場目線でのメリットとデメリット、そしてお客様のQOL向上に向けての最善策を考えます。
目次
現場で起きていること
ドラッグストア各社がルール改正以後にそれぞれ対応はしていますが、現状は各社で対応が分かれている状態です。
ルールが大枠であるため各社対応の手法や解釈が異なっているのは問題だと感じるので個人的には改善を望みます。
ここでは現場での対応方法を考えます。
まず今回の改正で発生する表面的なリスクとコストを見てみましょう。
登録販売者の時間的拘束
最も大きいのは時間的な拘束リスクです。どれだけ確認を簡易的にしても15秒以上は必要です。因みに私は少なくとも1分以上かけて確認を行っています。
レジの担当者が登録販売者なら必要ないのですが、無資格者の場合は登録販売者に応援を求めるため、レジへの往復時間も必要です。
店舗で実際に計ったら往復で30秒、確認に約1分30秒必要でした。風邪薬1回の販売で約2分必要ということです。
私の店舗では1日で10回〜20回販売するため、登録販売者が30分程度対応するための時間が必要となります。
野暮な事を言うと、この対応のために月間で15時間程度の登録販売者の人時を使う事になるのです。
お客様の時間的拘束
お客様目線で見てみても、今まで無かった確認が突然始まりそれが各登録販売者、各企業で対応が異なる...
こうなると真面目な店舗や資格者への足が遠のき売上に影響が出る、というパターンも考えられます。
後に考察しますが、せっかくお客様の貴重な時間を頂くのですからお客様にプラスになる声掛けを行うのが理想です。
乱用者への対応
このルール改正の本来の目的は薬物乱用の防止です。登録販売者が最も対応に苦慮する場面ですよね。
現場の肌感だとあっさり引き下がる方と対応に時間を要する方にはっきりと二分されています。
登録販売者には「QOLの向上」に加えて「市販薬の適正使用」という社会的意義もあります。流されてそのまま販売する事は意義にも反しますし、店舗にとってリスクを負うことにも繋ります。
クレームとなる場合もあるので、これは後半で考察しましょう。
販売側とお客様の心理的不安
続いて心理的な面を見てみましょう。
自身の心理面を客観的に見るのは大切な事です。お客様の立場に立って考えられているか、ここで振り返ってみましょう。
不安を煽っていないか
お客様の立場に立つと市販薬を購入するという事は、症状を緩和させるための「安心」を得るための「期待」を購入するという事です。
一部例外はあるでしょうが、その期待を大きく損なう事なく登録販売者としての意義を果たす必要があります。
つまり、「市販薬の適正使用」を盾に必要以上に不安を煽る事は「QOLの向上」を阻害する面もあるのです。
新たな乱用者を生み出す危険性
これは薬物乱用の報道が新たな薬物乱用者を呼ぶ構造が店頭でも起きるおそれがある、という事です。
情報は受取り側の考え方でベネフィットにもリスクにもなります。
全くその気がなくても、風邪薬を購入する際に乱用の知識を得て自らその道に足を踏み入れる可能性もゼロではありません。
乱用のきっかけはどこにあるか分からないものです。
それがあなたであってはいけません。
明らかな薬物乱用者は別として、適正使用をしているお客様に対して必要以上にリスクを強調すべきではありません。
それは「市販薬の適正使用」と、お客様の「QOLの向上」を阻害する事につながります。
家庭用常備薬としての意義
「今回の規制で影響を受けているのが大手メーカーから販売されている微粒風邪薬で、報道でもこの商品中心に乱用されていると想定されます。
乱用や転売への販売は厳に規制すべきですが、日常の軽い体調不良に備える「安心」こそが家庭用常備薬の存在意義です。
特に高齢者層に多いのですが、この心理的な支えをやたらとリスクを強調し不安を煽るのは家庭用常備薬の存在意義を揺るがす事とも言えます。
もちろん持病リスクは説明すべきですが、説明のしすぎもデメリットが大きいのです。
どこまで説明すべきか
では「濫用等のおそれのある医薬品」販売時に、どこまで説明したら良いのでしょう?
風邪薬にはほぼ咳止め成分で「濫用等のおそれのある医薬品」が1〜2種類配合されているので、連用すると依存しやすくなるのも確かな事です。
高齢者の方の中には予防目的で風邪薬を使用し依存に陥る方もいらっしゃいますが、登録販売者としてはこうした意図しない依存を防ぐ役割もあります。
お客様の心理を探る
では登録販売者から説明を受けたお客様の心理から考えてみましょう。
突然いつも安心していた商品のリスクを知らされたら驚く方もいるはずです。
店頭でリアクションが無くても次回の購入をためらってしまうかもしれません。
「濫用等のおそれ」という言葉は我々が思う以上のパワーワードと捉えるお客様もいらっしゃる事は忘れてはいけません。
そう感じたお客様は次から何を選んだらいいか、途方に暮れるかもしれません。
登録販売者に相談しない、自身でも調べられないお客様はどうしたらいいのか...?
そう考えると、最もしてはいけない事は「リスクを伝えるだけでお客様を突き放す」説明なのです。
利便性とリスクの伝え方
医薬品の特性としてリスクを伝えるのは当然しなければいけないことです。
ただここで必ずお客様に寄り添った伝え方をしないと「法律に則っただけの冷たい接客」となってしまいます。
リストに沿って説明をしている企業も多いはずですが、それだと冷たさが強調されてしまうので注意が必要です。
リストはあくまで要点をまとめたツールとして扱い、お客様に寄り添った言葉で説明を行うべきです。
その際は必ずメリットとデメリットをお伝えします。メリットを伝えないと医薬品が「実は恐ろしいモノ」として伝わってしまいます。
リスクの伝え方は非常に難しいのですが、お客様の反応を見ながら説明を行います。
乱用者への断り方
問題は明らかな乱用者への対応です。
多くの登録販売者が苦慮していると思いますが、結論としては売ってはいけません。
肌感ですが某小児用液体風邪薬は「一個包装一個」の原則により大幅に売上個数が減少しました。
しかし咳止め薬に関してはほとんど効果が現れていないので対策が必要です。
私の店舗では明らかに乱用をしていると確認できた方は以下の対応を行っています。
- ポイント会員なら購入履歴をチェックし登録販売者の確認時に対応
- 非会員なら成分の説明を入念に行う
お客様情報を把握できないポイント会員でない方には、成分の説明と「濫用等のおそれのある医薬品」の意義について説明し理解を求めます。もちろん話の中で受診勧奨を行うことも必須です。
今回購入となっても、自店で購入するにはかなりの手間が発生すると思って頂くことも重要です。これを複数の店舗で行うことで入手経路を少なくしていくことは業界のテーマでもあると考えています。
登録販売者としての対応
「濫用等のおそれのある医薬品」の具体的なお声掛け方法を考えていきましょう。
厚生労働省の通知では以下の確認事項があります。
- ① 当該医薬品を購入し、又は譲り受けようとする者が若年者である場合は、当該者の氏名及び年齢
→購入者が子供(高校生、中学生等)である場合はその氏名や年齢を確認するとともに使用状況を確認すること。 - ② 当該医薬品を購入し、又は譲り受けようとする者及び当該医薬品を使用しようとする者の他の薬局開設者、店舗販売業者又は配置販売業者からの当該医薬品及び当該医薬品以外の濫用等のおそれのある医薬品の購入又は譲受けの状況
→購入者が同じ医薬品を他店で買っていないか、すでに所持していないか等を確認すること。 - ③ 当該医薬品を購入し、又は譲り受けようとする者が、適正な使用のために必要と認められる数量を超えて当該医薬品を購入し、又は譲り受けようとする場合は、その理由
→原則一人1包装。複数の購入希望があった場合に理由・使用状況などを確認して、支障ない場合に限り販売等が可能。 - ④ その他当該医薬品の適正な使用を目的とする購入・譲受けであることを確認するために必要な事項
また、薬機法施行規則の「二」には登録販売者が適正使用のために必要と認められる数量に限り、販売することが認められています。
《医薬品医療機器等法施行規則》
(濫用等のおそれのある医薬品の販売等)
第十五条の二 薬局開設者は、薬局製造販売医薬品又は一般用医薬品のうち、濫用等のおそれがあるものとして厚生労働大臣が指定するもの(以下「濫用等のおそれのある医薬品」という。)を販売し、又は授与するときは、次に掲げる方法により行わなければならない。
一 当該薬局において医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師又は登録販売者に、次に掲げる事項を確認させること。
- 当該医薬品を購入し、又は譲り受けようとする者が若年者である場合にあつては、当該者の氏名及び年齢
- 当該医薬品を購入し、又は譲り受けようとする者及び当該医薬品を使用しようとする者の他の薬局開設者、店舗販売業者又は配置販売業者からの当該医薬品及び当該医薬品以外の濫用等のおそれのある医薬品の購入又は譲受けの状況
- 当該医薬品を購入し、又は譲り受けようとする者が、適正な使用のために必要と認められる数量を超えて当該医薬品を購入し、又は譲り受けようとする場合は、その理由
- その他当該医薬品の適正な使用を目的とする購入又は譲受けであることを確認するために必要な事項
二 当該薬局において医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師又は登録販売者に、前号の規定により確認した事項を勘案し、適正な使用のために必要と認められる数量に限り、販売し、又は授与させること。
つまり、皆さんが行っている確認事項に応じられない、もしくは該当しないお客様に対しての販売をお断りすることは法律で認められているのです。
それを踏まえた上で対応を考えてみましょう。
お客様ごとの対応力
先に書いたとおりお客様に応じて対応を変えるべきですが、問題は乱用ではない一般のお客様への説明です。
ここで私の店舗で行っている方法を紹介しておきます。
この方法で乱用ではないお客様からのクレームは起きていません。
風邪薬の販売時は『4月から医薬品販売ルールが変更となりましたので、法令に基づき確認させて頂きます』とお声掛けし、「濫用等のおそれ~」という文言は使っていません。
そして該当成分を差し『用法容量以上の服用や、数週間以上に渡る服用を行うと依存を引き起こす可能性があります』『現状、社会問題となっているので確認させて頂きます』と、「異常な使い方をするとデメリットが起こる」ことを説明し、お客様の反応を確認します。
風邪薬なら「咳止め」か「鼻詰まり」が該当成分となるのでその症状があるか確認し、可能なら「濫用等の~」成分が配合されていない商品をお勧めします。
たとえば喉の痛みだけなら解熱鎮痛剤で対応可能なので、お客様にとってリスクが少ない市販薬を案内します。
確認事項を全て確認したら『なにかご質問はございませんか?』と必ずお聞きします。
まれにお客様のご家族に乱用をしている方がいて、アドバイスを行ったことが4月以降で2件ありました。お客様は目の前にいる方だけではありません。心のこもった説明をすることで目の前のお客様の周りの方のケアを行うことも可能です。
今回のルール改正は「販売ハードルが上がった」のではありません。
「お客さまの依存を含む副作用被害を未然に防ぐ」事にあります。
特に、依存目的でない使用方法で気付いたら依存に陥っていた...という不幸を防ぐための声掛け機会が訪れたことは、現状の商品ラインナップでの販売において大きな意義を持つと感じています。
濫用対応はチャンス
この通り、手間はかかりますが今回のルール改正では販売店においてチャンスでもあります。
チャンス...というのは「優良顧客を増やすことができる」ということです。
これは理想論ではなく、私の店舗では2か月弱でお客様から感謝され、固定客化できそうな芽がいくつか見られています。
濫用対応でのチャンスとは主に以下の通りです。
- 正しい市販薬を紹介できる
- プラスワンで販売することができる
- 強制的な接客機会で固定客を増やすことができる
最も有益なのは「お客様に正しい商品を紹介できる」ことです。
過去の経験やCMなどで商品を選んでいるお客様に対して「強制的に」接客機会を得るのは効果的です。お客様の反応をみて、ぜひ『売場でご紹介しましょうか?』と接客を行ってみてください。
また、プラスワンでの販売を行うことも可能です。
風邪薬に対してドリンク剤やビタミン剤、鼻炎薬に対して点鼻薬など、プラスワンの提案はいくらでも可能です。夏に鼻炎薬を購入されるならホコリが原因かもしれないので新しい清掃商品など、市販薬以外でも喜ばれます。売場全体を把握する登録販売者のチカラはここで発揮されます。
そして起こるのは固定客化です。
確かに「濫用等の~」の対応は今までなかった作業なので手間だと思いますが、真摯に取り組むことで長期的に見れば必ず店舗にとってメリットになるのです。
店舗の基準のつくり方
ここまで対応を考えてきましたが、ポイントは店舗で統一した対応をすべきです。
統一せずに店舗内で厳しい登録販売者と甘い登録販売者が存在するとクレームにしかなりません。
また、濫用対応でクレームになるのはリストに基づいたテンプレ確認を行っている事がほとんどです。
確認を行うこと自体に拒否反応を示すお客様もいらっしゃいますが、これはコンビニにおける酒販売時の年齢確認タッチパネルでのクレームと同じで何をしても拒否されます。
これは対応のしようがないので粛々と確認を行うべきで、ルールはルールとして守らないと店舗が無法地帯となる可能性もあります。
最後にTwitterでアンケートを行った結果をご紹介しておきます。
- Q.「濫用等のおそれのある医薬品」販売の現状を教えてください。
-
慣れてきた ・・・50%
店舗運営に支障が出ている・・・15%
有耶無耶になってきた ・・・20%
ルールが守られていない ・・・15%
ルールを適正に守ってこそ、お客様のQOLが守られ、店舗は成長します。
やるべきことをしっかり守ってこそ、主張ができます。業界全体でルールを守り、適正な販売ができる風潮を皆でつくりましょう!
執筆者:ケイタ店長(登録販売者)
ドラッグストア勤務歴20年、一部上場企業2社で合計15年の店長経験を活かし、Twitterなどで登録販売者へのアドバイスや一般の方への生活改善情報の発信を行っている。Twitterフォロワー数約5,000人。
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