【現役薬剤師が解説】登録販売者が今最も取り組むべき「受診勧奨」とは?ガイドラインをおさらい
【現役薬剤師が解説】登録販売者が今最も取り組むべき「受診勧奨」とは?ガイドラインをおさらい
登録販売者の仕事の一つに受診勧奨があります。登録販売者は市販薬に関するプロですので、市販薬で対応できるかどうか判断が難しい場合などは、医師への受診を勧めるのが通例です。これまで受診勧奨のガイドラインとして、4つの症状についてのみが提示されてきましたが、近い将来、このガイドラインが更新されていくことが明言されています。そこで今回は、受診勧奨のガイドラインについて詳しく解説するとともに、その重要性や現場でのポイントについても紹介します。
目次
- ・登録販売者にとってなぜ今「受診勧奨」が重要?
- ・「症状別受診勧奨ガイドライン」をおさらいしよう
- ・【受診勧奨の接客事例】咳症状で来店された場合
- ・受診勧奨をスムーズにおこなうポイント
- ・まとめ|ガイドラインを理解し、適切な受診勧奨をおこなおう
登録販売者にとってなぜ今「受診勧奨」が重要?
日本チェーンドラッグストア協会は、2022年12月に「2023年 年頭所感及び活動報告と今後の事業計画」というニュースリリースを公開しました。このニュースリリースは2023年度の協会の活動方針を示すもので、大きく以下の7項目が挙げられています。
- 1. 環境に配慮したリサイクル社会への取り組み
- 2. ドラッグストア薬剤師の育成への取り組み
- 3. 医薬品登録販売者の資質向上への取り組み
- 4. 「食と健康」をドラッグストアの柱とする取り組み
- 5. 行政書式統一等の行政改革要望の取り組み
- 6. JACDS 顧問会によるロビー活動の強化
- 7. 他団体と連携し、ともに発展する
参考:日本チェーンドラッグストア協会「2023年 年頭所感及び活動報告と今後の事業計画」
この中の「3.医薬品登録販売者の資質向上への取り組み」では「JACDS版受診勧奨ガイドライン」について触れられています。
受診勧奨の役割とは
受診勧奨は登録販売者の大切な仕事の一つです。なぜなら、薬局・ドラッグストアで受けたお客さまからの何気ない相談がきっかけで医療機関を受診し、重大な病気が見つかることがあるからです。また、それが病気の初期段階で受診する機会となれば、地域生活者にとって大きなメリットになります。
ドラッグストア利用者のメリット
OTC医薬品で対応可能な症状かどうかの判断や医療機関を受診すべきかどうかの判断は、医療知識がなければ難しいものです。お客さまにとっては「軽い不調」程度の認識であっても、医療関係者からすると大きな病気の前触れであるケースもあるからです。その「軽い不調」程度の相談をドラッグストアが全面的にサポートすることができれば、お客さまは経済的な負担なく健康相談をする機会を得ることが可能となります。
医療機関のメリット
薬局やドラッグストアでの受診勧奨は、医療機関にとってもメリットがあります。なぜなら「受診が必要な症状」と「受診が必要ない症状」を適切に振り分けることで、医療資源(人的資源、物的資源)を無駄にせずに済むからです。また、新型コロナウイルスの流行が続いている今、そのメリットは大きいと考えられます。
「症状別受診勧奨ガイドライン」をおさらいしよう
「症状別受診勧奨ガイドライン」で公開されている具体的な確認方法や流れは、実際の接客で役に立つ内容となっています。それぞれをしっかりと把握し、現場で実践しましょう。
「典型的な風邪」かどうかの見極めが大事
①咳症状(咳・痰)、②鼻症状(鼻汁・鼻づまり)、③喉症状(咽頭痛・イガイガ感)の3つが、急性に、同時に、同程度みられれば、「典型的な風邪」といえます。「同時」とは、3つの症状がある瞬間から同時に出るということではなく、1日程度の経過のなかで症状が出揃うことをいいます。逆にいえば、これに当てはまらない場合は「典型的な風邪」ではない可能性が高いということです。なお、鼻症状がある場合は、重篤な疾患の可能性は低いとされています。今から解説をする咳症状、鼻症状のガイドラインについてはこれらの知識がベースになっているため、きちんと頭に入れておきましょう。
「風邪」とは、上記の3症状が「急性に」「同時に」「同程度」存在する病態を有する、ウイルス性の急性気道感染症である。
参考:「JACDS版受診勧奨ガイドライン 第1版:2022年8月1日制定(P.5)」咳症状
咳症状の場合、以下の流れで受診勧奨をおこないます。上記3症状のチェックをおこない、それに当てはまらない場合は「典型的な風邪」ではない可能性があるため、次のチェックに進みます。咳症状の受診勧奨では、肺炎の可能性があるかどうかの見極めが大切です。
引用:「JACDS版 受診勧奨ガイドライン 第1版:2022年8月1日制定(P.7)」鼻症状
鼻症状の場合も上記同様に3症状チェックをおこない、それに当てはまらない場合は「典型的な風邪」ではない可能性があるため、次のチェックに進みます。鼻症状における受診勧奨では、細菌性の副鼻腔炎の可能性があるかどうかの見極めが大切です。細菌性の副鼻腔炎は自力で治すことが困難なため、1つでもレッドフラッグサインがある場合は受診勧奨をおこないます。
引用:「JACDS版 受診勧奨ガイドライン 第1版:2022年8月1日制定(P.8)」胃腸炎の3症状チェック
胃腸炎の場合も風邪と同じように、3つの症状を確認していきます。胃腸炎の場合、①吐き気・嘔吐、②腹痛、③下痢(水様便)の3つが、急性に、同時に、同程度みられればウイルス性胃腸炎といえます。特に、水様の下痢が頻回みられればウイルス性胃腸炎の可能性が高くなります。一般的にウイルス性胃腸炎であればセルフケアが可能ですが、細菌性胃腸炎は抗菌薬治療が必要な場合もあるため、受診勧奨の対象となります。
下痢
下痢の症状がある場合、上記に示した通り、3症状チェックをおこないます。これに当てはまらない場合は「ウイルス性胃腸炎」ではない可能性があるため、次のチェックに進みます。下痢症状の受診勧奨では、細菌性胃腸炎などの可能性があるかどうかの見極めが大切です。
引用:「JACDS版 受診勧奨ガイドライン 第1版:2022年8月1日制定(P.9)」腰痛
腰痛の症状は、脊髄圧迫病変や心血管疾患(大動脈解離、腹部大動脈瘤の破裂、脊髄梗塞など)といった症状である可能性もあるため、その見極めが重要です。このような病気では、いずれも緊急な対応が必要なため、受診勧奨をおこないます。腰痛の場合、まずは「①安静にしても改善しない」、「②随伴症状(腰痛に伴う他の症状)がある」の2項目に当てはまるかどうかを中心にお客さまに確認します。これらに当てはまる場合、次のチェックに進みます。腰痛の受診勧奨においては、「緊急」の場合と「準緊急」の場合があるため、症状に応じて対応が必要です。
引用:「JACDS版 受診勧奨ガイドライン 第1版:2022年8月1日制定(P.10)」他の症状も今後追加される可能性が高い
上記で紹介したガイドラインは「第1版」とある通り作成に着手して間もないため掲載事例が少ないようですが、日本チェーンドラッグストア協会はこれから順次事例を増やしていく方針を示しています。
【受診勧奨の接客事例】咳症状で来店された場合
当ガイドラインには、受診勧奨のポイントだけでなく、接客事例や店舗で活用できる「受診勧奨状」のフォーマットなども掲載されています。いずれも有用な内容となっていますので、ぜひガイドラインの後半(11ページ以降)も確認してみてください。
参考:「JACDS版受診勧奨ガイドライン第1版:2022年8月1日制定例えば、接客事例では咳のあるお客さまを想定し、ポイントを押さえながら解説をしています。この事例では、前項で解説した「咳症状のフローチャート」を活用していますので、以下の流れで接客が進んでいきます。
- 1. 3症状のチェックによる「典型的な風邪」かどうかの判断
- 2. 咳症状が強い場合、「肺炎」の可能性がないかどうかの判断
- 3. 受診勧奨が必要かどうかの判断
- 4. 受診勧奨が必要な理由についての説明
上記の流れを頭に入れておくと、実際の接客もスムーズにいきますよ。
また、「受診勧奨状」は、受診勧奨をおこなった後に作成してお客さまにお渡しすることで、地域の医療機関との連携をスムーズにするものです。実際の書き方についてもガイドラインに例示されていますので、こちらもぜひ「受診勧奨ガイドライン」をご一読ください。
受診勧奨をスムーズにおこなうポイント
実際に店舗で受診勧奨をおこなう際は以下のポイントを心がけてみてください。
ガイドラインを活用する
まず、現在ガイドラインに掲載されている症状(咳症状、鼻症状、下痢症状、腰痛症状)に関しては、上記ガイドラインを活用してみてください。店舗に立つ前にあらかじめ印刷しておき、お客さまと共に確認していくような使い方をしてみるのも一案です。
よくある事例を店舗内で共有する
上記以外の症状の場合、「受診勧奨」をおこなった事例に関して店舗内で共有するのもよいでしょう。私の経験談になりますが、以前勤務していた会社では重要な接客についてメモしておいたものを店舗で取りまとめ、月に1度、他店と情報共有する取り組みをおこなっていました。誰かが対応した事例を分析して話しあうことで、社員全体のスキルアップにつながっていたため、有効的な策であったといえます。
受診のメリットをていねいに伝える
受診勧奨をすると、お客さまに「病院に行きたくない」と断られてしまうこともあります。そのような時は、受診勧奨の必要性についてていねいに説明しましょう。伝える際のポイントは、以下の通りです。
- • 医療機関を受診した方が、治療の選択肢が多いこと
- • OTC医薬品で改善できる症状には限界があること
- • 効果が期待できない商品を販売することで、お客さまに余計な金銭的負担を負わせたくないこと
- • お客さまの健康を心配していること
真摯に対応すれば理解してもらえるケースが多いので、ぜひ上記ポイントを心がけてみてください。
診断することは不可
最後に、登録販売者は病気を診断することはできないということをしっかりと理解しておきましょう。例えば、「お客さまは〇〇病が疑われますので、受診をしてください」などと具体的な病名を出してしまうと、お客さまと医師との間でトラブルになってしまう可能性があります。また、お客さまを過度に怖がらせてしまって受診控えにつながることもありますので、できるだけ専門用語は使わないように心がけるのもポイントでしょう。
まとめ|ガイドラインを理解し、適切な受診勧奨をおこなおう
受診勧奨は登録販売者の仕事の一つですが、この判断を適切におこなうには、病態などの更なる知識を身に付けることが大切です。受診勧奨ガイドラインを活用しながら病態の知識も習得し、適切な受診勧奨ができるようにしていきましょう。
執筆者:村松 早織(薬剤師・登録販売者講師)
株式会社東京マキア 代表取締役
登録販売者や受験生向けの講義を中心に事業を展開
twitter、YouTube等のSNSでは、のべ1万人を超えるフォロワー・チャンネル登録者に向けて、OTC医薬品についての情報発信を行っている。
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