【登録販売者必見】抗コリン薬はなぜ禁忌?作用や接客方法をわかりやすく解説

抗コリン薬は、添付文書に多くの注意事項が載っています。OTC(一般用医薬品)の接客において、もっとも注意を要する薬と言ってもよいでしょう。このコラムでは、抗コリン薬の特徴や禁忌事項について詳しく解説します。最後にケーススタディを入れているので、ぜひ挑戦してみてください。
目次
- ・登録販売者は復習しよう 抗コリン薬の概要
- ・登録販売者が押さえておきたい 「抗コリン作用のある成分」を含まない商品
- ・登録販売者はトライしてみよう!抗コリン薬のケーススタディ
- ・まとめ|抗コリン薬は「眠気の副作用」と「持病のある人」に注意
登録販売者は復習しよう 抗コリン薬の概要

そもそも抗コリン薬とは何か?など、まずは基礎知識について解説します。
抗コリン薬とは?
自律神経系は、交感神経系と副交感神経系からなります。基本的に、交感神経系は体が闘争や恐怖等の緊張状態に対応した態勢をとるように働き、副交感神経系は体が食事や休憩等の安息状態となるように働きます。
さらに、交感神経を亢進させる物質はノルアドレナリン、副交感神経を亢進させる物質がアセチルコリンです。このうち、アセチルコリンの働きを抑える作用(抗コリン作用)を有する薬を「抗コリン薬」と言います。抗コリン薬は、アセチルコリンの働きを抑えることで、相対的に交感神経を優位にするため、さまざま副作用を生じることがあります。

抗コリン薬の種類と作用
抗コリン薬が含まれる薬効分類と主な成分、作用を見ていきましょう。
薬効分類 | 成分 | 作用 |
---|---|---|
風邪薬、鼻炎用内服薬 | ベラドンナ総アルカロイド、ヨウ化イソプロパミド | 鼻汁分泌やくしゃみを抑える |
乗り物酔い防止薬 | スコポラミン臭化水素酸塩水和物、ロートエキス | 中枢に作用して自律神経系の混乱を軽減させるとともに、末梢では消化管の緊張を低下させる作用を示す |
胃の薬 | ロートエキス、ピレンゼピン塩酸塩 | 過剰な胃液の分泌を抑える。 ※胃液の分泌は、副交感神経系からの刺激によって亢進するため |
腸の薬(胃腸鎮痛鎮痙薬) | ブチルスコポラミン臭化物、チキジウム臭化物、ロートエキス | 胃腸の過剰な動き(痙攣)を抑える。胃痛、腹痛、さしこみ(疝痛、癪)を鎮め(鎮痛鎮痙)、胃酸過多や胸やけに対する効果も期待して用いられる ※消化管運動は、副交感神経系の刺激によって亢進し、また、副交感神経系は胃液分泌の亢進にも働くため |
抗コリン薬の副作用
抗コリン薬の主な副作用として、散瞳による目のかすみや異常な眩しさ、顔のほてり、頭痛、眠気、口渇、便秘、排尿困難などがあります。そのため、服用後の自動車の運転が禁止されており、排尿困難の症状がある人や、心臓病、緑内障などの持病のある人では、症状の悪化を招くおそれがあります。とくに高齢者では、排尿困難や緑内障の持病を持つ場合が多く、また、一般的に口渇や便秘の副作用が現れやすいので、慎重に薬を選んでください。
【抗コリン薬の主な副作用】

抗コリン薬の「使用上の注意」
抗コリン薬の主な「使用上の注意」の記載を、「してはいけないこと」と「相談すること」にわけて記載します。
【してはいけないこと(禁忌)】
内容 | 成分 | 理由 |
---|---|---|
授乳中の人は本剤を服用しないか、本剤を服用する場合は授乳を避けること | ロートエキスが配合された内服薬、外用痔疾用薬(坐薬、注入軟膏) | 乳児に頻脈を起こすおそれがあるため。また、授乳婦の乳汁分泌が抑制されることがある |
服用後、乗物又は機械類の運転操作をしないこと | ロートエキス(止瀉薬) | 眠気等 |
スコポラミン臭化水素酸塩水和物(胃腸鎮痛鎮痙薬、乗物酔い防止薬) | 眠気、目のかすみ、異常なまぶしさを生じることがあるため | |
ピレンゼピン塩酸塩水和物(胃腸薬) | 目のかすみ、異常なまぶしさを生じることがあるため | |
スコポラミン臭化水素酸塩水和物以外の抗コリン成分(風邪薬、胃腸鎮痛鎮痙薬、鼻炎用内服薬、乗物酔い防止薬) |
【相談すること】
内容 | 成分 | 理由 |
---|---|---|
排尿困難の症状がある人 | スコポラミン臭化水素酸塩水和物、イソプロパミドヨウ化物等の抗コリン成分、ロートエキス | 排尿筋の弛緩と括約筋の収縮が起こり、尿の貯留を来すおそれがあるため。とくに、前立腺肥大症を伴っている場合には、尿閉を引き起こすおそれがあるため |
心臓病 | 心臓に負担をかけ、心臓病を悪化させるおそれがあるため | |
緑内障 | 抗コリン作用によって房水流出路(房水通路)が狭くなり、眼圧が上昇し、緑内障を悪化させるおそれがあるため |
抗ヒスタミン薬の抗コリン作用にも注意
抗ヒスタミン薬は、抗ヒスタミン作用だけでなく、抗コリン作用も持ちます。これは、ヒスタミン受容体とアセチルコリン受容体の構造が似ており、抗ヒスタミン薬がアセチルコリン受容体に結合することがあるからです。
そのため、抗コリン薬のみならず、抗ヒスタミン薬についても、前項の「使用上の注意」について、同様に注意が必要です。とくに、第一世代の抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン塩酸塩やクロルフェニラミンマレイン酸塩など)は、抗コリン作用が強いため、慎重に対応しましょう。
登録販売者が押さえておきたい 「抗コリン作用のある成分」を含まない商品

抗コリン薬や第一世代の抗ヒスタミン薬では、抗コリン作用に関連した副作用があるため、それらの成分を含まない商品を押さえておきましょう。
風邪薬
抗コリン薬や抗ヒスタミン薬を含まない風邪薬はほとんどないため、緑内障や前立腺肥大症の方については、基本的に、「熱があれば解熱鎮痛薬」といった要領で、個別の症状で対応しましょう。抗コリン薬や抗ヒスタミン薬を含まない風邪薬の例は、以下の通りです。
①パブロン50錠
- 成分:アセトアミノフェン、グアヤコールスルホン酸カリウム、麦門冬湯乾燥エキス
- 特徴:解熱鎮痛薬や去痰薬、咳に用いられる麦門冬湯の配合剤であり、持病のある方にもすすめやすい
②改源
- 成分:アセトアミノフェン、㎗-メチルエフェドリン塩酸塩、無水カフェイン、カンゾウ末、ケイヒ末、ショウキョウ末
- 特徴:解熱鎮痛薬と気管支拡張薬、風邪の回復を助ける生薬の配合剤である
- 注意:抗コリン薬や抗ヒスタミン薬は含まないが、アドレナリン作動成分のメチルエフェドリン塩酸塩が配合されているため、そちらの注意事項についても配慮すること
参考:PMDA一般用医薬品・要指導医薬品 情報検索「パブロン50錠」
参考:PMDA一般用医薬品・要指導医薬品 情報検索「改源」
内服用鼻炎薬
多くの内服用鼻炎薬には、抗コリン薬や第一世代の抗ヒスタミン薬が含まれています。しかし、第二世代の抗ヒスタミン薬の場合、「使用上の注意」に前立腺肥大症や緑内障に関する注意書きのない商品もあります。商品例は以下の通りであり、これらの商品には、自動車の運転を禁止する注意事項も記載されていません。ただし、これらの商品は、「アレルギー性鼻炎」への適応はありますが、「急性鼻炎(=鼻風邪)」への適応はないので注意しましょう。
①アレグラFX
- 成分:フェキソフェナジン塩酸塩
- 特徴:自動車の運転を禁止する注意事項がない
②クラリチンEX
- 成分:ロラタジン
- 特徴:自動車の運転を禁止する注意事項がない
補足になりますが、第二世代の抗ヒスタミン薬のうち、メキタジンは抗コリン作用が強いと言われており、排尿困難や緑内障に関する注意書きが記載されているため、あわせて押さえておきましょう。
参考:PMDA 一般用医薬品・要指導医薬品 情報検索「アレグラFX」
参考:PMDA 一般用医薬品・要指導医薬品 情報検索「クラリチンEX」
総合胃腸薬
胃腸薬でとくによく配合されている抗コリン薬は、ロートエキスです。ロートエキスなどの抗コリン薬を含まない総合胃腸薬としては、次のものがあります。
①第一三共胃腸薬細粒s/第一三共胃腸薬錠剤s
- 成分:タカヂアスターゼN1、リパーゼAP12、アカメガシワエキス、カンゾウ末、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、水酸化マグネシウム、オウバク末、ケイヒ末、ウイキョウ末、チョウジ末、ショウキョウ末、l-メントール
- 特徴:消化酵素、健胃生薬、制酸薬、胃粘膜保護薬がバランスよく配合されている。ナトリウムを配合しておらず、塩分が気になる方でも服用可
②スクラート胃腸薬S(散剤)/スクラート胃腸薬S(錠剤)
- 成分:スクラルファート水和物、炭酸水素ナトリウム、合成ヒドロタルサイト、ビオヂアスターゼ2000、リパーゼAP12、健胃生薬末
- 特徴:胃粘膜保護薬のスクラルファート水和物を中心とした総合胃腸薬であり、とくに胃痛がある方におすすめ
参考:PMDA 一般用医薬品・要指導医薬品 情報検索「第一三共胃腸薬細粒s」
参考:PMDA 一般用医薬品・要指導医薬品 情報検索「第一三共胃腸薬錠剤s」
登録販売者はトライしてみよう!抗コリン薬のケーススタディ

最後に、抗コリン薬に関するケーススタディに挑戦してみましょう。
ケース1.前立腺肥大症が疑われるお客さまへの風邪薬の販売
50代、男性。今朝より軽いのどの痛みと咳、鼻水があり、風邪薬をご希望である。医師から前立腺肥大症と診断されたことはないが、登録販売者(あなた)が「最近、尿が出にくいなどの症状はありませんか?」と聞いたところ、「ある」との答えだった。そのほか基礎疾患はないものとする。この男性に対して不適切であると考えられる商品を、次の中から1つ選びなさい。
①カロナールA
②パブロン50錠
③ベンザブロックSプレミアム錠
④浅田飴AZのどスプレーS
正解:③ベンザブロックSプレミアム錠
③のベンザブロックSプレミアム錠の成分は、アセトアミノフェン、ヨウ化イソプロパミド、d-クロルフェニラミンマレイン酸塩、トラネキサム酸、ジヒドロコデインリン酸塩、dl-メチルエフェドリン塩酸塩、グアイフェネシン、無水カフェイン、リボフラビン、ヘスペリジンである。ヨウ化イソプロパミドは抗コリン薬、d-クロルフェニラミンマレイン酸塩は第一世代の抗ヒスタミン薬であり、排尿困難の症状のある人は「相談すること」になっている。お客さまの排尿困難の症状が悪化するおそれがあるため、不適切であると考えられる。
なお、②のパブロン50錠については本コラムで解説した通り。①のカロナールAは「アセトアミノフェン」、④の浅田飴AZのどスプレーSは「アズレンスルホン酸ナトリウム」が有効成分であり、どちらも使用は問題ないと考えられる。ただし、①②④のいずれも、お客さまのすべての症状をカバーできるわけではないため、そちらについてもていねいに説明しよう。
ケース2.緑内障のお客さまへの胃薬の販売
40代、女性。医師に「緑内障」と診断されている。軽度の胸焼けと胃もたれ、食欲不振の症状があり、胃薬をご希望である。緑内障以外に基礎疾患はないが、医師から処方された緑内障の目薬を使っているため、登録販売者(あなた)が商品を選んだ後、店舗の薬剤師に最終確認をする予定である。この女性に対して不適切であると考えられる商品を、次の中から2つ選びなさい。
①第一三共胃腸薬細粒s
②キャベジンコーワα
③スクラート胃腸薬S(散剤)
④ブスコパンA錠
正解:②キャベジンコーワα、④ブスコパンA錠
②のキャベジンコーワαには、ロートエキスが含まれており、緑内障の人は「相談すること」とされている。緑内障の種類や治療経過次第では服用できる可能性もあるが、お客さまがロートエキス配合の商品を強く希望されている場合を除き、積極的に選ぶ理由はとくにないと考えられる。
また、④のブスコパンA錠は胃腸鎮痛鎮痙薬であり、成分は「ブチルスコポラミン臭化物」、効能効果は「胃痛、腹痛、さしこみ(疝痛、癪)、胃酸過多、胸やけ」である。お客さまの症状の場合、総合胃腸薬の方が適切であると考えられる。また、ブスコパンA錠も、緑内障の人は「相談すること」とされている。
まとめ|抗コリン薬は「眠気の副作用」と「持病のある人」に注意
抗コリン薬は扱いが難しい薬の一つです。しかし、「抗コリン薬を含まない商品」を押さえておくことで、格段に対応が楽になります。混乱しそうな時は、添付文書を確認すれば問題ありません。ぜひ接客にトライしてみましょう。

執筆者:村松 早織(薬剤師・登録販売者講師)
株式会社東京マキア 代表取締役
登録販売者や受験生向けの講義を中心に事業を展開
X(旧:Twitter)、YouTube等のSNSでは、のべ1万人を超えるフォロワー・チャンネル登録者に向けて、OTC医薬品についての情報発信をおこなっている。
- ■著書
- ・医薬品暗記帳 医薬品登録販売者試験絶対合格! 「試験問題作成に関する手引き 第3章」徹底攻略(金芳堂)
- ・薬機法暗記帳 医薬品登録販売者試験絶対合格! 「試験問題作成に関する手引き 第4章」(金芳堂)
- ・これで完成! 登録販売者 全国過去問題集 2023年度版(KADOKAWA)
- ・村松早織の登録販売者 合格のオキテ100(KADOKAWA)
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