【現役ドラッグストア店長直伝】「濫用等のおそれのある医薬品」で登録販売者が陥りやすいミス<登録販売者のキャリア>

ほとんどの風邪薬が「濫用等のおそれのある医薬品」に該当される改正から一年経ちました。
改正当初の混乱は徐々に落ち着いてきてお客さまも登録販売者側も慣れてきたころと思います。
しかし、数店舗で登録販売者のお声がけや接客を見ていると問題点も散見されるのも事実です。
今回は「濫用等のおそれのある医薬品」の接客やレジでのお声がけについてもう一度考えてみましょう。
目次
「濫用等のおそれのある医薬品」販売の実態

一年前のコラムで「濫用等のおそれのある医薬品」のお声がけにおけるコツや改善策を書きました。
【現役ドラッグストア店長直伝】濫用等のおそれのある医薬品販売<登録販売者のキャリア>
今回は慣れてきたときに起こりがちなミスや制度が改正されて手抜きになってしまっている確認点を考えていきましょう。
旧基準での「濫用等のおそれのある医薬品」を思い出してみよう
改正前の基準では「コデイン・ジヒドロコデインは鎮咳去痰薬に限る」「メチルエフェドリンは鎮咳去痰薬のうち内用液材に限る」という限定がありましたが、改正により解除となりました。
これにより、ほぼすべての風邪薬や一部の皮膚薬にまで「濫用等のおそれのある医薬品」としてレジでの声がけが必須となりました。
旧基準のときは風邪薬で該当するのは「プソイドエフェドリン」が配合されているもののみだったため、特定の商品に限った声がけでした。
そしてこの「プソイドエフェドリン」は依存性と同時に高血圧などが禁忌となっているため、レジでのお声がけ時に注意喚起することで健康被害を防ぐことができました。
これは法律や条例で定められてはいませんでしたが、このように制度を利用しお客さまの健康を守ろうとする登録販売者も多かったのです。
しかし制度改正により風邪薬がほぼすべて「濫用等のおそれのある医薬品」に指定されることで優先順位が低い商品への接客回数が増え、登録販売者の労力も増加しているのが実情です。
新基準でのお声がけでどう変わったか
基準を改正したことで該当商品が倍以上に膨れあがったため、販売に際し現場では以下のような問題点があります。
- お客さまに必要以上の不安を抱かせてしまう
- 資格者によりお声がけの基準が違う
- 本当に注意喚起が必要な方へのお声がけができない
順にみていきましょう。
- お客さまに必要以上の不安を抱かせてしまう
どんなに副作用リスクを説明しても全く届かないお客さまから、例えばビタミンC製剤でも「医薬品」と記載があるものに対して恐怖感や忌避感を抱かれる方まで、医薬品への抵抗感は個人差があります。
医薬品を購入しようとするお客さますべてに「依存リスク」をお声がけするのですから、短期的に使用するお客さまが思いもよらなかった「デメリット」に恐怖感をもって受け止められることも少なくありません。
OTC(一般用医薬品)が持つ「セルフメディケーション」という側面において、これこそデメリットとなりかねない状況です。
- 資格者によりお声がけの基準が違う
ここでは「資格者」としましたが企業でも対応方法が一律ではなく、店頭でも「〇〇ドラッグでは何も言われなかったのに...」というお声をいただくこともあります。
また同じ企業や店舗内においてもお声がけの項目や内容について差があることもあり、お客さまに不信感を抱かせる原因にもなります。
- 本当に注意喚起が必要な方へのお声がけができない
個人的にはこれがもっとも懸念されることです。
長期的な依存リスクに接客時間を全振りすることにより、短期的な副作用リスクに対して注意喚起の時間がなくなったり意識が薄れたりしてしまっているのが現状です。
ではお客さまからの視点で考えてみましょう。
お客さま視点で考えてみよう
お客さまの中にはこの制度に慣れた方もいらっしゃるでしょうし、とくに気にしていないお客さまもいらっしゃいます。
「依存しているお客さまに販売をしない」のが制度の主旨であり、その危険性が低いお客さまにはもしかしたら必要のない声がけかもしれません。
ただこうしたお客さまにとって必要のない確認事項を自身に「必要なこと」と感じていただくにはある程度の聞きかたやニュアンスが必要となります。
現場としては国や報道機関に周知してもらいたかったり、パッケージでの注意喚起や依存性のない成分を使用したりするなど、根本的な制度改革を望む気持ちはありますが、現状としてはひとりでも多くのお客さまに「必要なこと」と感じていただく努力が必要です。
それには二点の方法があります。
- 「注意すること」を利用する
- ツールを有効活用する
では順にみていきましょう。
「注意すること」を軽視していないか考える

先ほども述べたように、外箱に記載された「注意すること」に対する私たち登録販売者の意識が薄れてきているのは明らかです。
「濫用等のおそれのある医薬品」販売での濫用防止のためのお声がけや接客での注意喚起は必須ですが、今までできていた「注意すること」に記載の生活習慣病を中心とする禁忌事項の確認ができていない事例を何度か目にしています。
OTC(一般用医薬品)の濫用件数より生活習慣病の患者数の方が圧倒的に多いのは事実ですから、ここを疎かにしてはいけません。
「濫用」の声がけだけではいけない理由
これはOTC(一般用医薬品)を利用する方のほとんどが「注意すること」を読んでいないからです。
接客の際にお聞きするとわかりますが、ほとんど読まれていません。
読んでいたとしても「してはいけないこと」と「相談すること」の違いがわからなかったり、重大さを理解していなかったりするなど記載上の問題点もあります。
しかしわたし達はその内容をお客さまに伝えることこそが職責なのです。
ほとんどのOTC(一般用医薬品)がセルフ販売で、商品に記載の「注意すること」が読まれていない以上、販売側からアプローチするしかありません。
それには「濫用等のおそれのある医薬品」を逆に利用することが現状ではベストの選択肢となります。
「禁忌」でのお客さまへの断り方
たとえば「プソイドエフェドリン含有の風邪薬」をレジでお声がけする際にお客さまが禁忌である高血圧だったらどうしますか?
「依存リスク」だけの注意喚起だと、それこそ単なる「お声がけ」で終わってしまいます。
もし上記のお薬をお持ちになられたら「この成分はふたつリスクがあります」と始め、「依存」と「禁忌」を説明するとお客さまも理解して頂けます。
この際は「この成分は依存の問題と使ってはいけない方が存在します」と、まずはふたつのリスクを提示し、緊急性の高い「禁忌」から説明します。
理由は該当した時点で販売不可の方がいらっしゃるからです。
「してはいけないこと」に記載の病名を口頭で読み上げ、確認してください。
よくあるパターンが「いつも飲んでいるから大丈夫」という返答ですが、このときは信号機で例えると理解していただきやすいのでお勧めです。
- 「してはいけないこと」は赤信号
- 「注意すること」は黄信号
どちらの信号も無視することが即事故につながるわけではありません。
また、交差点も駅前と郊外では違います。
「高血圧だけどいつも飲んでいるから大丈夫」の返答としてわたしはこう返答しています。
「ここに記載の『してはいけないこと』は赤信号で渡るのと同じです。お客さまの症状で交通量は違ってきますが、いままで赤信号で渡っていて大丈夫だったのは『たまたま車が来なかったから』ということです。」
わたし達はOTC(一般用医薬品)の専門家です。
お客さまには平易な言葉と例えで説明してください。
ここでの「お客さまが急いでいる」や「レジが混んでいる」は言い訳にはなりません。
信号の例えですと「急いでいるからタクシーが道交法を無視」「間に合わないから信号無視」と本質は同じです。
ツールを有効活用しよう
会社で用意されている「濫用等のおそれのある医薬品」用のツールは活用できていますか?
もし使っていなかったら必ず使ってください。
お客さまは基本的に「見ていない」うえに「聞いていない」という前提で接するべきです。
自身が店舗で買い物するときを思い出してみるとわかりますが、レジで言われたことを聞いていますか? 店内告知POPを読んでいますか?
ほとんどの方が無意識のうちに流しているだけなのです。
「目」と「耳」両方にアプローチするためにもツールは必ず使用し、手で指し示しながら説明をおこなってください。
お客さまご案内用のツールがない会社の場合は、厚生労働省などのHPに「濫用等のおそれのある医薬品」のページがあるので印刷し使用するのも効果的です。
必ずツールや外箱などを使用し、お客さまに健康被害のリスクがあることの説明をおこなってください。
お客さまのQOL向上のために登録販売者ができること

毎回コラムで「お客さまのQOL向上」に向けて登録販売者へのアドバイスをお伝えしていますが、この「濫用等のおそれのある医薬品」の販売はその最たるものです。
では結論としてお客さまにどう接したらよいのでしょうか。
登録販売者の意義と責務とは
まず登録販売者の制度としての意義は「セルフメディケーションの推進」です。
国民がOTC(一般用医薬品)を活用し、問題となっている国民医療費をこれ以上増加させないことや、健康寿命を伸ばすことが目的です。
そして登録販売者の責務とは、地域のお客さまのQOLを改善させることがあげられます。
来店されるお客さまの健康増進のお手伝いをすることが責務といえます。
逆にいえばお客さまのQOLを低下させたり、それを見て見ぬふりをしたりするようなことはあってはならないことです。
お客さまに支持される店づくりをすることは必須ですが、時には毅然とした対応をする場面もあります。
健康被害は店舗にとっても損害
万一、健康被害が起こってしまったらどうなるのでしょう。
もし、声がけのタイミングで注意喚起を怠って健康被害が起きてしまったら...?
わたし達は薬の成分のデメリットを学習しているためデメリットの可能性やOTC(一般用医薬品)の飲み合わせのリスクは理解できますが、お客さまは千差万別で判断材料がわたし達よりも少ない可能性があることを忘れてはいけません。
しかし考え方は違ったとしても、当然ながら体のつくりは同じなので副作用リスクは考え方や捉え方にかかわらず存在します。
お客さまの感覚と薬の物理的な作用の間の「壁」を、わかりやすく説明し正しい使用方法や選びかたを説明することが登録販売者のもっとも大きな仕事ともいえます。
もし健康被害が起こったら「○○店で購入した薬で副作用が起こった」という悪評が立つだけでなく、倫理的にも問題ですし、場合によっては法的な責任を問われる事態になるおそれがあります。
これは登録販売者に限った話ではなく他の業態でも同じことですが、意識すべきは「お客さまのメリットよりデメリットを防ぐ」ことです。
売らないことで信頼を得る
そして場合によっては、「売らない」ことで結果的に利益を得られることも少なくありません。
要するにお客さまから信頼を得てリピートしていただく、ということです。
具体的に次のようなシチュエーションがあります。
- お客さまの自宅にあるOTC(一般用医薬品)で対応できる
- 小容量では効果が期待できない
- OTC(一般用医薬品)を使用しても効果がないことが明らかである
このような場面ではお客さまに余計なリスクと費用を負わせるべきではありません。
次回のコラムで詳しくシチュエーション別に解説していきますが、店舗としてお客さまにすべきことは「利益をいただく」のではなく「信頼していただく」ことなのです。
お客さまの信頼から利益は生まれます。
「利益先行」の気持ちから継続的な利益は生まれないのです。
場合によっては販売をお断りし、お客さまの負担を減らしたりQOLを向上させたりすることが、店舗を成長させることも多々あるのです。
どう行動したらいいかは次回以降でお話しますが「ひとりの登録販売者としてお客さまから信頼していただく」という考えのもとに行動するとリピーターも増え、お客さまから信頼される店舗がつくれますし、登録販売者個人としても会社から必要とされる人材となれるのです。
毎日の接客の中で「濫用等のおそれのある医薬品」の販売シーンは頻繁にあり、その回数だけ信頼を得るチャンスがあります。
十人中ひとりでも大丈夫なので継続して信頼を積み重ねていきましょう!

執筆者:ケイタ店長(登録販売者)
ドラッグストア勤務歴20年、一部上場企業2社で合計15年の店長経験を活かし、X(旧Twitter)などで登録販売者へのアドバイスや一般の方への生活改善情報の発信を行っている。X(旧Twitter)フォロワー数約5,000人。
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