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医療パラダイムシフトとOTC医薬品の重要性:健康保険法改正が変える患者行動と登録販売者の未来

医療パラダイムシフトとOTC医薬品の重要性:健康保険法改正が変える患者行動と登録販売者の未来

2026年5月29日、参議院本会議で改正健康保険法など関連法案が可決・成立しました。今回の健康保険法改正には『OTC類似薬』の薬剤給付の見直し策が盛り込まれるなど、わが国のセルフメディケーションの推進にとって歴史的な内容が含まれています。

本コラムでは初めにOTC類似薬の薬剤給付見直しを中心とする今回の健康保険法改正で注目される視点、さらに、7月に閣議決定される予定の「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」が示す、医療機関、薬局の集約・再編などマクロな動きを踏まえながら、現場の登録販売者が担う重要な役割について解説します。

本コラムを読むことで、今回の制度改正が登録販売者の業務内容や求められるスキル、さらには求人市場にどのような変化をもたらすのかを具体的に理解できます。特に、OTC医薬品の需要拡大に伴い、現場での役割や評価がどのように変わるのか、今後どのような職場を選ぶべきかを判断する視点を得ることができます。

目次

はじめに 健康保険法改正が示した「医療パラダイムシフト」とは何か

はじめに 健康保険法改正が示した「医療パラダイムシフト」とは何か

これまでのわが国のセルフメディケーション推進策は、その多くが啓発活動や税制優遇(セルフメディケーション税制)にとどまり、残念ながら国民の受診行動を根本から変容させるほどの強力なインセンティブや、制度的強制力を持つには至らなかったというのが実情です。しかし、高市政権の発足以降、この潮流は明らかな転換点を迎えつつあります。その象徴的な具体策が「OTC類似薬の一部保険外療養制度(選択療養制度の拡大策)の導入」を盛込んだ健康保険法改正です。セルフメディケーションは単なる努力目標ではなく、国民一人ひとりが避けて通れない日常のスタイルとして、本格的に定着し始めています。

第1章 OTC類似薬制度と患者行動のパラダイムシフト

OTC類似薬制度と患者行動のパラダイムシフト

― 医療パラダイムシフトの出発点としての健康保険法改正―
今回の健康保険法改正の概要と施行時期の一覧を図表-1に示しました。
「OTC類似薬の薬剤給付見直し」はまさに1丁目一番地に位置付けられています。

OTC類似薬の薬剤給付見直しによる「医療費抑制効果(年間)」は、政府の試算によると約900億円、「社会保険料の削減効果」は1人当たり年400円程度とされています。したがって、2027年3月に予定されているOTC類似薬の薬剤給付見直しだけで、OTC医薬品への需要が大きく拡大したり、セルフメディケーションが一気に進むことは、あまり期待できません。

ただし、今回のOTC類似薬の薬剤給付見直しは、まさに「始まりの始まり」であり、大きな意義があります。

それは2025年12月19日、自由民主党と日本維新の会はマスメディアでも大きく取り上げられた通り、「政調会長間合意」によって「令和9年度以降にその対象範囲(77成分約1,100品目)を拡大していく。あわせて、特別の料金を徴収する薬剤費の割合の引上げについても検討する」と明記され、令和9(2027)年以降、OTC類似薬の範囲の拡大、薬剤費割合引上げについて論議が再開するのは明らかです。

なお、現在の医療用漢方薬市場は約2,000億円です。この医療用漢方薬を保険適用から除外すると、OTC漢方薬市場に大きな影響を与えるのは言うまでもありません。現在、OTC漢方薬市場は700億円程度ですが、仮に医療用漢方薬が保険から除外されるとOTC漢方薬市場は激増するのは確かです。

OTC漢方薬と医療用漢方薬は用法・用量が異なり、OTC類似薬のカテゴリーには含まれていません。しかし、医療用漢方薬の保険適用のあり方(保険薬価からの除外を含む)については、以前から見直しが検討されてきています。今後はその流れに拍車がかかるのは避けられないといえます。

このように医薬品市場および国民の受診行動に最も直接的かつ劇的な影響を与えるのが、「OTC類似薬の一部保険外療養制度(選択療養)の導入」です。以下に同制度について概要を紹介します。

図表-1 健康保険法等の一部を改正する法律案 概要 図表-1 健康保険法等の一部を改正する法律案 概要

1-1 OTC類似薬とは何か

OTC類似薬の薬剤給付見直しとは、軽度の諸症状〔鼻炎(内服・点鼻)、・胃痛・胸やけ・便秘、解熱・痛み止め・風邪症状全般、乾燥肌等など〕に対して、処方される医療用医薬品のうち、すでに市販薬(OTC医薬品)として同等の77成分(約1,100 品目)を対象医薬品とし、薬剤費の1/4に特別の料金を設定するというものです。
これまで、日本の国民皆保険制度のもとでは、「病院で処方せんをもらえば、市販薬を買うよりも安く(しかも手厚い診察付きで)薬が手に入る」という逆転現象が常態化していました。これが医療費を逼迫させる一因となっていましたが、同制度が本格導入されれば、病院で処方を受ける経済的メリットは大幅に喪失し、セルフメディケーション推進の動きは加速度的に拡大することになります。

1-2 患者行動のパラダイムシフト

窓口負担の引き上げと、近い将来、OTC類似薬の保険外化が合流することで、国民の行動原理は以下のように激変することが期待されます。

【従来の行動】
「少し熱がある、風邪気味だ」 → とりあえず近くの病院を受診 →3割負担で処方薬を処方してもらう。それでもOTC薬を購入するより薬剤費は極めて安く済む。

【これからの行動】
「少し熱がある、風邪気味だ」 → 病院に行くと初診料や処方制限、類似薬負担で高くつく → まずは薬局・ドラッグストアでOTC医薬品を購入して様子を見る。

このように、公的保険のセーフティネットとしての役割が「重症・高度医療」へシフトするに伴い、軽症段階における「ファーストチョイスとしてのOTC医薬品」の地位が確立されると期待されます。これはまさに保険医療制度の理念とするものです。

今回のOTC類似薬の薬剤給付見直しにおいても、実施にあたっては、こども、がん患者、難病患者など配慮が必要な慢性疾患を抱えている方、低所得者、入院患者、医師が対象医薬品の長期使用等が医療上必要と考える方等に対する配慮を検討することは衆議院、参議院ともに附帯決議として明記されています。

これは極めて重要なことです。医療上・経済上の配慮が必要な人は公的医療保険でカバーし、そうでない人には OTC薬購入を基本とする制度に切り替えていくという方向性が明確に示されました。これまで患者の自己負担割合を「年齢別」から「負担能力別」に大きくシフトする明確な方向が今回の健康保険法改正で示されました。

1-3 高齢者医療の窓口負担見直しと応能負担

今回の健康保険法改正ではもう一つ大きな改正があります。それは後期高齢者医療の窓口負担等の見直しです。

これは75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担割合を判断する際、株式配当などの金融所得を適切に反映させる仕組みが導入されることが決定しました。これは図表-1に示すとおり、施行は公布後5年以内とされており、実施は数年先の見込みです。ただし、「年齢別」から「負担能力別」への切替えがいよいよ本格化する第1歩が確実に健康保険法に明記された意義は極めて大きいといえます。

今後、自治体が金融所得の情報をマイナンバーカードなど活用して、いかに金融機関からオンラインで取得できる仕組みを構築するか、具体的な検討が始まることになります。この見直しも、セルフメディケーション推進に大きなインパクトを与えることになります。

第2章 医療パラダイムシフトを加速させる「骨太の方針」

医療パラダイムシフトを加速させる「骨太の方針」

高市政権は、現役世代の社会保険料負担の軽減と公的医療保険制度の持続可能性を最優先課題に掲げ、超党派での社会保障改革を進めています。

その本格的な予算編成のグランドデザインとなる2026年度「骨太の方針」では、これまでの政権が踏み込めなかったドラスティックな「医療供給体制の再編」と「給付と負担の見直し」が明記される見通しです。ともに日本維新の会がかねてより主張している内容です。その中核をなすのが、以下の3つの見直しになります。

ここでは「骨太の方針」が閣議決定される前に、骨太の方針内容を検討している経済財政諮問会議などの資料を参考に紹介します。6月に正式に閣議決定され次第、内容が固まり次第、改めて詳しく解説したいと思います。

2-1 小規模病院の集約・再編

我が国の医療提供体制の課題として、病床過剰と急性期医療の分散が指摘されて久しくたちます。2026年度の骨太の方針では、各地域に乱立し、経営や資源が分散している小規模な病院の大胆な「集約化・再編」を打ち出す予定になっています。

これにより、限られた医療従事者を中核病院へ集中させ、高度医療の質を担保する一方で、軽症患者や慢性期患者の「病院離れ」を制度的に促す狙いもあります。この動きはセルフメディケーション推進に直結し、治療から予防重視に向けたインセンティブであるのは言うまでもありません。

2-2 門前薬局モデルの終焉と薬局再編

医療費抑制のターゲットは、医療機関だけでなく調剤報酬にも及んでいます。「骨太の方針」に大きな影響を与える財務省の財政制度審議会財政制度分科会では、「門前薬局に代表される、小規模かつ機能が重複した調剤薬局の乱立体制を見直し、かかりつけ機能や在宅対応能力を持つ大規模・多機能な薬局への集約・再編を誘導する」と提言され、「点から面」分業に向けた大きなインセンティブを提示しています。

実は、この件は10年前に厚生労働省自らが提示した「患者のための薬局ビジョン」(2015年)にも明記されていました。厚生労働省がこうしたビジョンを自ら提示していたにもかかわらず、薬局の集約・再編は一向に進まず、むしろさらに小規模薬局が増加していることに財務省や政府が我慢の限界が来たということで、国の方針として「骨太の方針」に「大規模・多機能な薬局への集約・再編」を明記する予定になっています。

従来から門前薬局は、「処方せんを調剤して渡すだけ」などの批判がありましたが、今回の「骨太の方針」ではそのビジネスモデルの終焉を意味しており、薬局が地域住民の健康相談やOTC医薬品の販売拠点へと脱皮を強く迫る内容になる予定です。

2-3 応能負担の徹底とモラルハザード抑制

2026年度の診療報酬改定では物価高騰や賃上げへの対応として一時的な補助金支援を行う一方で、医療機関に対しては一層の経営効率化とデータに基づく適正化を求めています。さらに、高齢者医療における「年齢に関わらない真の公平な応能負担(原則3割負担への早期引き上げ等)」や高額療養費制度の上限引き上げなど、窓口負担の見直しが相次いで実行に移されることが、5月29日の健康保険法改正成立で決定しました。

これにより、患者側の「受診の適正化(モラルハザードの抑制)」がかつてない規模で進むこととなります。ここでいう「モラルハザード」とは、「医療保険制度が充実すればするほど、自分の健康状態に無頓着になり、その結果として医療機関の受診回数が増加し、医療費が増加する」という負のスパイラルをいいます。

以前から医療保険制度に伴う「モラルハザード」の問題は指摘されていましたが、今回の健康保険法改正で、その方向がより明確化してきています。これも言い方を替えればセルフメディケーション推進に他なりません。

第3章 終末期医療の見直しと「予防・自然死」への回帰

終末期医療の見直しと「予防・自然死」への回帰

2026年度「骨太の方針」におけるもう一つの最大の柱であり、思想的な大転換とも言えるのが、「終末期医療(後期高齢者医療)の延命治療見直し」です。

3-1 延命治療の見直しと終末期医療の適正化

我が国では、一人あたりが一生涯に費やす医療費の約半分は、75歳以上の後期高齢期に消費され、その多くが亡くなる直前の終末期医療、とりわけ、過度な延命治療に多くが費やされているとされています。

財政の持続可能性の観点、そして「人間の尊厳ある死」という倫理的観点の双方から、現政権は過度な終末期の延命医療の公的保険給付のあり方を見直す方針を固めています。

本人の事前意思(アドバンス・ケア・プランニング:ACP)の尊重を制度化し、医療機関による過剰な延命介入を抑制するインセンティブ設計を行う。これにより、従来の「最期まで病院のベッドでチューブに繋がれて生きる」医療から、「住み慣れた地域や自宅で、苦痛緩和に努めながら安楽な自然死(平穏死)を迎える」という選択が、今後の社会において劇的に増加していく見込みです。

3-2 「治療」から「予防・維持」へのパラダイムシフトがもたらす影響

終末期医療の見直しと、自然死を尊ぶ社会風潮へのシフトは、国民の「健康」に対する価値観を根本から変えることになると期待されています。

医療とは、「悪くなってから病院で治してもらうもの」ではなく、「悪くならないように自ら管理し、生涯現役を目指すもの」へと変化していきます。これはまさにセルフメディケーション推進の発想です。

ここで重要性が浮き彫りになるのが、未病対策です。未病対策は日常的な健康維持・管理が重要になります。それは裏を返せば、公的医療が「最後の砦」として一見、後退するかのように世論としては思われがちです。公的医療が『最後の砦』として後退したように見える分、国民は自らの健康維持に、より主体的に取り組まざるを得ません。

その結果として、かえって健康状態が維持される可能性もあります。この「治療から予防・維持へ」のシフトこそが、セルフメディケーションを真にドライブする精神的・社会的基盤となるものです。

第4章 医療パラダイムシフト時代におけるOTC医薬品の重要性と社会的役割

医療パラダイムシフト時代におけるOTC医薬品の重要性と社会的役割

2025年12月5日、「医療法等の一部を改正する法律」が成立しました。今回の改正の最重要政策は「地域医療構想の見直し」を盛り込んだ医療法の改正です。

これは2040年を見据えて地域の医療提供体制全体の将来ビジョン・方向性を定め、それに則って医療機関の分化・連携、病床の機能分化・連携等を進めていく法改正です。

これまでの地域医療構想は主に入院医療(病床数の調整、病床の機能分化など)が主体でしたが、「新たな地域医療構想」では「治す医療」と「治し支える医療」の役割分担についても明確化されています。今後の検討の中でOTC医薬品が果たすべき重要性と社会的役割についても、かつてないほどに増大する方向です。

これはそのまま、登録販売者の役割拡大にもつなげなければなりません。具体的には、以下の3つの側面においてその価値が見直されるべきだと思います。

4-1 医療アクセスを補完する「身近なインフラ」としてのOTC医薬品

地方を中心とした小規模病院の集約・再編は、地理的な医療アクセスの空白を生むリスクを孕むことになります。
また、病院の受診控えが進むなかで、地域のドラッグストアや薬局に並ぶOTC医薬品は、国民が迅速に体調不良を改善するための「第一線の医療インフラ」となります。

スイッチOTC(医療用から市販薬へ転用された成分)のさらなる拡充により、かつては病院でしか手に入らなかった高度な有効性を持つ医薬品が、今や身近な店頭で入手可能になる方向であり、医療機関の受診を代替するに十分なポテンシャルを備えることになります。もちろん、病気になる前の未病対策、予防対策が必要です。登録販売者にはその役割が期待されます。

4-2 未病・予防の中心ツールとしてのOTC医薬品

「治療から予防へ」のシフトにおいて、OTC医薬品は単に症状が出てから飲むものにとどまらず、ビタミン剤や漢方薬、アレルギー予防薬、さらには日々の体調管理をサポートする保健薬として、セルフケアの核となります。

これは高市政権が掲げる「攻めの予防医療」の精神とも合致し、国民が日常のパフォーマンスを維持し、健康寿命を延ばすための必須アイテムとして、そのOTC薬市場規模と重要性は拡大の一途をたどると期待されます。

4-3 薬剤師のコンサルティングと融合した安全網の構築

小規模乱立する調剤薬局の見直しによって生き残る「多機能・地域密着型薬局」において、薬剤師の主たる任務は処方せん調剤から「OTC医薬品を軸としたセルフメディケーションのトリアージ(受診勧奨の判断)」へシフトさせる方針を厚生労働省は示しています。それを進めなければ、将来的に薬剤師の雇用にも大きな影響が出ると懸念されているためです。

患者がOTC医薬品を選択する際、専門知識を持つ薬剤師や登録販売者が適切にコンサルティングを行うことで、不適切な薬の服用を防ぎ、本当に病院に行くべき重症者を見極めて医療機関へ送る「ゲートキーパー」の役割は重要です。特に登録販売者は、その役割が重要になるといえます。OTC医薬品は、薬剤師、登録販売者の職能発揮とセットになることで、日本の新・医療安全網として機能することになります。

第5章 まとめ:医療パラダイムシフトを支える登録販売者とOTC医薬品の未来

まとめ:医療パラダイムシフトを支える登録販売者とOTC医薬品の未来

公的医療保険の財政的限界を直視し、限られた医療資源を本当に必要なところへ集中させるという、極めて現実的かつドラスティックな国の制度改正が進んでいます。

小規模病院の集約、調剤薬局の再編、高齢者医療の負担増、そして終末期医療のあり方の見直し――これら一連の構造改革は、言い換えれば「軽症段階における自己責任と自助努力の要求」、まさにセルフメディケーション意識の普及に他なりません。
この巨大な社会的要請を受け止める受け皿こそ登録販売者が期待されると思います。

OTC類似薬の一部保険外療養制度導入は、製薬業界やドラッグストア業界にとっては空前のビジネスチャンスであると同時に、日本の医療崩壊を防ぐための重大な社会的責任を負うことを意味しているといえます。

国民が主体的にOTC医薬品を選び、自らの健康をコントロールする「真のセルフメディケーション社会」の実現こそが、超高齢社会・日本が持続可能であり続けるための、ほぼ唯一の道と言ってよいでしょう。そして、その実現において登録販売者が果たす役割は、極めて大きなものです。

著者情報:
医薬ジャーナリスト 柴田 龍

プロフィール
1982年、医薬専門誌・紙企業に勤務、厚労省記者クラブ、医療分野の記者を経て、1998年、団体職員に転向、以後、医薬関係団体等の理事を務め、厚生労働省の検討会委員、厚生労働科学研究・医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業、スイッチOTC医薬品関連に関する研究などの研究協力員および作業チームに参加、現在に至る。

過去の記事 一般用医薬品のリスク区分変更とは?2026年新スキームの内容と登録販売者への影響
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