登録販売者によるOTC第1類医薬品の販売はどうなる?スイッチOTCについても解説
登録販売者によるOTC第1類医薬品の販売はどうなる?スイッチOTCについても解説
2022年11月、日本チェーンドラッグストア協会(以下、JACDS)は自民党の「予算・税制等に関する政策懇談会」において政策に関する要望書を提出しました。その要望の内容は、要指導医薬品のスイッチOTC化や一般用医薬品の販売・取り扱いルールに関するものが主体となっており、登録販売者も知っておくべき内容となっています。そこで本記事では、本要望書の概要をわかりやすく解説するとともに登録販売者への影響について考えます。
目次
- ・JACDSが提出した「政策に関する要望書」とは
- ・登録販売者なら知っておきたい!スイッチOTCとは
- ・登録販売者によるOTC第1類医薬品の販売が可能になったらどうなる?
- ・まとめ|登録販売者によるOTC第1類医薬品の販売に備えよう
JACDSが提出した「政策に関する要望書」とは
要望書は大きく「1.国民皆保険の堅持とセルフメディケーション促進、女性の活躍応援の観点から」「2.国民の安心で円滑な医薬品購入アクセス整備の観点から」「3.行政および企業双方の業務効率化を促進する観点から」の3つの観点に分かれています。
1.国民皆保険の堅持とセルフメディケーション促進、女性の活躍応援の観点から
緊急避妊薬のスイッチOTC(一般用医薬品)化
緊急避妊薬は、避妊せずにおこなった性交や、避妊に失敗した性交後に用いる避妊薬です。緊急避妊薬は、性交後72時間以内に内服する必要がありますが、産婦人科や婦人科などの病院を受診して医師から処方してもらう要指導医薬品となっています。しかし、地域によっては病院が少なく産婦人科への受診が困難な場合や、犯罪が関与する場合などにおいて、緊急避妊薬へのアクセスがしにくい状況であるという指摘が各所で増えています。そこで、緊急避妊薬をスイッチOTC化してこの問題を解消しようという動きがあり、現在、議論が活発におこなわれている中、今回の要望書に盛り込まれることとなりました。
インフルエンザ用検査キットのスイッチOTC化
新型コロナウイルス感染症の終息の兆しが見えない中、新型コロナウイルス感染症の一般用抗原検査キットがスイッチOTC化され、2022年の秋ごろから販売がスタートしました。さらに、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスを同時に検査できる抗原定性同時検査キットについてもスイッチOTC化が了承され、2022年の年末から販売されています。
このように、現在、新しい一般用検査薬の承認が異例のスピードで進められている状況です。ここ数年は、新型コロナウイルスの流行と反比例するかのように、インフルエンザの流行が抑えられていますが(2023年についてはまだ進行段階のため不明)、インフルエンザに関しては、いつ過去のような大流行が起こるかわかりません。JACDSではそのような見通しを踏まえた形で、インフルエンザ用検査キットのスイッチOTC化を要望していると推測されます。
新型コロナOTC抗原検査キットの第1類から第2類への変更
現在、新型コロナOTC抗原検査キットは第1類医薬品となっています。しかし、第1類医薬品は薬剤師のみが販売でき、登録販売者は販売することができません。登録販売者からの第1類医薬品の販売が可能となれば、一般消費者の検査キットへのアクセス改善が期待されます。そこでJACDSでは、新型コロナOTC抗原検査キットを第1類医薬品から第2類医薬品へと変更することについても要望を出しています。
2.国民の安心で円滑な医薬品購入アクセス整備の観点から
OTC第1類医薬品の医薬品登録販売者による販売
また、JACDSは第1類医薬品の登録販売者による販売についても要望を出しています。この記事を読んでいる登録販売者の皆さんも、第1類医薬品が販売できないことをお客さまに説明する機会はかなり多いのではないでしょうか。この要望が実現した場合、お客さまの第1類医薬品へのアクセス面における問題は解消されますが、登録販売者の責任や役割は今よりさらに大きくなります。したがって、薬剤師・登録販売者の立場からこの要望についてはさまざまな意見があることでしょう。
3.行政および企業双方の業務効率化を促進する観点から
都道府県等の手続書類における書式の統一化
現在、都道府県や市区町村における申請書類の書式がそれぞれ異なるため、チェーンストアにおいてはそれが効率化の大きな障害となっています。そこでJACDSでは、各自治体で異なる行政手続書類の統一を要望しています。
参考:一般社団法人日本チェーンドラッグストア協会「2022年の締めくくりと2023年 年頭所感等について」登録販売者なら知っておきたい!スイッチOTCとは
「スイッチOTC医薬品」とは、医療用医薬品から一般用医薬品にスイッチ(転用)された医薬品のことです。似たような言葉に「ダイレクトOTC医薬品」がありますが、「ダイレクトOTC医薬品」は、新有効成分が一般用医薬品としてダイレクトに(直接)承認されたものを指しています。
1.スイッチOTC医薬品のメリット・デメリット
従来、スイッチOTC医薬品は医療用医薬品として使用されていたため、医療機関を受診したときと同じ効果が期待できます。したがって、スイッチOTC医薬品を活用すれば、病院や薬局での待ち時間や交通費が削減できるというのがメリットになります。また、箱単位で購入するため、何度も病院に足を運ぶ必要がなくなります。
一方、スイッチOTC医薬品でセルフケアをおこなうということは、その症状については医師・薬剤師の手から完全に離れてしまう可能性があるということです。定期的に受診して医薬品を処方・調剤されている場合と、完全に自己管理する場合では、当然安全性などにおいてデメリットが発生することが考えられます。そのデメリットの部分については、薬局・ドラッグストアの薬剤師や登録販売者がサポートできるのが理想の形でしょう。
2. セルフメディケーション税制
セルフメディケーション税制もスイッチOTC医薬品と密接に関係しているため、しっかりと把握しておく必要があります。セルフメディケーション税制は、健康の維持増進や疾病の予防のための一定の取組をおこなう人が、スイッチOTC医薬品を購入した際に、その購入費用について所得控除を受けることができる制度です。対象となる商品の一部には、以下のような識別マークがついています。
なお、セルフメディケーション税制は、2022年1月以降、制度が5年延長され、税制対象医薬品の範囲が拡充されました。現在はスイッチOTC医薬品だけでなく、スイッチOTC以外の一般用医薬品についても一部が対象となっています。
参考:厚生労働省「セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について」登録販売者によるOTC第1類医薬品の販売が可能になったらどうなる?
もし登録販売者が第1類医薬品を販売することになったら、具体的にどのような影響があるのでしょうか。
OTC第1類医薬品の知識が必要
登録販売者が第1類医薬品を販売できるようになれば、第1類医薬品の商品知識が不可欠です。現時点での主な第1類医薬品の商品には、次のようなものがあります。
- ロキソニンS
- ガスター10
- リアップ
- ニコチネル パッチ20
- アクチビア軟膏
- 排卵日検査薬
また、第1類医薬品は、法律上、第2類医薬品や第3類医薬品と販売時の対応も異なります。例えば、「書面を使った説明」や「販売後の書面の保存」なども必要になるため、薬機法関連の知識も理解する必要が出てくるでしょう。
登録販売者の責任や役割が大きくなる
第1類医薬品は、保健衛生上のリスクが「特に高い」ものです。登録販売者が第1類医薬品を扱うようになれば、その分個人の責任が大きくなることは明らかです。一方で、現在、薬剤師がおこなっている仕事を登録販売者がおこなうことになれば、登録販売者の役割は大きくなるでしょう。
〈一般用医薬品のリスク区分〉リスク区分 | 保健衛生上のリスク | 詳細 |
---|---|---|
第1類医薬品 | 特に高い |
✔ その副作用等により日常生活に支障を来す程度の健康被害が生ずるおそれがある医薬品のうちその使用に関し特に注意が必要なものとして厚生労働大臣が指定するもの ✔ その製造販売の承認の申請に際して第14条第11項に該当するとされた医薬品(※1)であって当該申請に係る承認を受けてから厚生労働省令で定める期間を経過しないもの |
第2類医薬品 | 比較的高い | ✔ その副作用等により日常生活に支障を来す程度の健康被害が生ずるおそれがある医薬品(第1類医薬品を除く)であって厚生労働大臣が指定するもの ✔第2類医薬品のうち、「特別の注意を要するものとして厚生労働大臣が指定するもの」を「指定第2類医薬品」としている |
第3類医薬品 | 比較的低い | ✔ 第2類医薬品および第2類医薬品以外の一般用医薬品 ✔ 日常生活に支障を来す程度ではないが、副作用等により身体の変調・不調が起こるおそれはある |
※スイッチOTC医薬品、ダイレクトOTC医薬品のこと
※参考:厚生労働省「一般用医薬品のリスク区分」キャリアアップの幅が広がる
登録販売者が第1類医薬品を販売できるようになれば、薬局やドラッグストアにおける登録販売者の必要性がより高まるため、キャリアアップの幅が広がります。その分、仕事における登録販売者の負担も大きくなりますが、登録販売者がこの変化を好機と捉えられるかどうかがキャリアアップの鍵となるでしょう。
まとめ|登録販売者によるOTC第1類医薬品の販売に備えよう
登録販売者による第1類医薬品の販売は、近い将来、実現する可能性は十分に考えられます。また、さまざまな医薬品が急速にOTC化している事実もあり、今後さらに登録販売者の需要が高まっていくことが予想されます。日ごろから情報収集をしてスキルアップに励み、早めの対策・行動に取り組んでいきましょう。
執筆者:村松 早織(薬剤師・登録販売者講師)
株式会社東京マキア 代表取締役
登録販売者や受験生向けの講義を中心に事業を展開
twitter、YouTube等のSNSでは、のべ1万人を超えるフォロワー・チャンネル登録者に向けて、OTC医薬品についての情報発信をおこなっている。
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