【指名の止まらない登録販売者を目指して】ドラッグストアで役立つズルい心理学《濫用防止コミュニケーション編》
【指名の止まらない登録販売者を目指して】ドラッグストアで役立つズルい心理学《濫用防止コミュニケーション編》

2023年、ドラッグストア業界に激震が走りました。『濫用のおそれのある医薬品』の取り扱いに変更が加わり、原則1人1包装までとなったのです。簡単に言ってしまうと【風邪薬は1人1個までしか買えない】という風に法律が変わった、というわけです。それに伴い、各々対応に追われているわけですが、残念ながらスムーズにいかず、購入者との間にトラブルが発生し、ストレスを抱えてしまう登録販売者も少なくないようです。そこで本記事では、うまく濫用防止を伝えるためのテクニックをご紹介します。
目次
- ●皆さまからの相談内容まとめ
- ●自分を知る【ヒトはNOが言えない生き物である】
- ●相手を知る【濫用しやすい人の特徴】
- ●絶対やってはいけないコミュニケーション
- ●とるべき濫用防止コミュニケーション
- ●さいごに
皆さまからの相談内容まとめ

先程、今回の法改正がトラブルやストレスになっているとお伝えしました。過去に私のところへ寄せられた具体的な相談内容をまとめると、次のようなものが挙げられます。
- 1.法律が変わった旨をありのまま伝えて販売を断ると、購入者に怒られてしまった
- 2.伝えなければいけないのは分かるが、相手に本音を伝えるのが怖くて言えない
- 3.先輩に相談しても「ただ伝えるだけしかない」と解決策を提示してもらえない
以上の内容をざっくりまとめると
- ①正論以外の方法で伝える術を知らない
- ②個人的なメンタルの弱さ
- ③マニュアルが不完全
主にこの3パターンがと考えられます。
この3パターンをご覧になって、お気づきの方もいるかもしれませんが、これらの悩みを明確に解決するためには、必ず心理学が必要になるのです。
①の例を見てみましょう。残念ながら、正論だけで人間は動きません。例えば「野菜を毎日食べて、しっかり運動し、良質な睡眠をとれば健康になる」なんてことは誰でも知っていますが、それが出来ないのが人間です。当然、正論に反発し、こちらに怒りをぶつけてくる方も少なくありません。そうなることが分かっているから②が発生するのです。にも関わらず、その正論だけを伝えるように作られているのがマニュアルです。大抵の場合、そのマニュアルに「引っ込み思案」は想定されておらず、まるで機械に言わせるかのように、伝えられることが大前提となります。ゆえに③が発生します。このように、正論だけで考えてマニュアルを作成し、それをそのままお客様や患者様にぶつけていく手法は、お世辞にも賢い戦略とは言えず、心理学的には愚の骨頂なのです。
自分を知る【ヒトはNOが言えない生き物である】

正しく対応するためには、ヒトの性質を知る必要があります。ヒトは本来群れをなして生きていた社会的動物であることは、前回の記事でご案内いたしましたが、実は今回のお話にも関係してきます。
前回の記事を読めば、より理解が深まりますので、ぜひご覧ください。
(前回の記事: ドラッグストアで役立つズルい心理学 《スベらない人間関係の作り方》)
実は『ヒトはNOが言えないように進化してきた生き物』なのです。
そもそも他人に対してNOを突きつける行為は"群れから外れる行動"を意味します。こういった行動は群れから嫌われ、自身の命を危険に晒す行為に他なりません。ゆえに我々は脳に深く刻まれた本能として、他人にNOを突きつけることに強い抵抗を感じるのです。
これを心理学の世界では【脅威管理理論】と呼びます。すべての人間は無意識のうちに死への不安を感じていて、私たちが選ぶ行動の多くは、その恐怖を解消するために行われる、という仮説です。
登録販売者が行う濫用防止コミュニケーションも同様です。特に今回の法改正によって『販売をお断りする』という行為が必然的に増えます。『販売を断る=相手にNOを突きつける』という図式が成立するため、多くの方が悩んでしまうのです。
つまり、皆さまは悪くありません。
「怖くてきちんと断れないなんて、自分は登録販売者として失格だ...」などと落ち込む必要はありません。我々はそういう生き物なのです。
まずはその事実を受け入れましょう。
それだけで心が少し軽くなるでしょう。
相手を知る【濫用しやすい人の特徴】

自分のことを知ったら、次は相手のことも知らなければなりません。
皆さまは薬物を濫用してしまう方に対して、どのような印象をお持ちでしょうか?
- ・意思が弱い
- ・怖い
- ・快楽主義者
- ・反社会的組織の人
正直、こういったイメージをお持ちではないでしょうか?ですが結論から言って、こういったステレオタイプは正しくありません。どういうことか説明します。
例えば皆さまの中で、コーヒーやエナジードリンクを飲んだことがある方も多いと思います。コーヒーやエナジードリンクには、カフェインが含まれており、中枢神経を刺激する作用があります。とても身近な物質ですが、依存してしまう方も少なくありません。
しかし、よく考えてみて下さい。それらを飲んだ方が全員依存症になるでしょうか?決してそんなことはありません。実際私も頻繁にコーヒーを飲みますが、依存症にはなっていません。
ではなぜ『依存症になる人』と『ならない人』がいるのでしょうか。そのキーワードは【ドーパミン】です。ドーパミンとは、神経伝達物質の一つで、脳内で分泌されることにより、多幸感が得られ、やる気が上がります。
ちなみにドーパミンを「興奮物質」と思っている人が多いですが、厳密には「興奮期待物質」であることを申し添えておきます。(この説明は長くなるのでまたの機会で)
このドーパミン不足が依存症患者の根本にあると言われています。
それではここで、依存症になりやすい人のタイプを紹介します。すべてを紹介することはできませんが、特に今回のメインの話題である市販薬の濫用に繋がりやすいものにスポットをあてて紹介します。
タイプ①幼少期の褒められ不足
当たり前ですが、人は褒められると嬉しい気持ちになります。これもドーパミンを始めとする、脳の報酬系によるものです。一般的な環境で育った人は、適度に親や周囲の大人から褒められることにより、天然のドーパミンの心地よさを体験します。何かしんどいことを乗り越えた先にある歓びを知っているので、薬物に頼らなくても生きていけます。
しかし、幼少期にこれらを経験できなかった人の場合はどうでしょうか?
親からの愛情に飢え、何をやってもダメ出しをされるような教育を受けてしまい、虐待やイジメにあってしまった人は、天然のドーパミンの快楽を知りません。
それを教えてくれるのが"薬物"なのです。
薬物を使っているその瞬間にのみ、心の痛みが和らぐのです。
タイプ②"周囲が求める自分"を求める
学校や会社でうまく人間関係を築けない場合も、薬物に依存してしまう種になります。このタイプに多い特徴としては『薬物を使用している時だけなりたい自分になれる』という傾向です。ただ、この"なりたい自分"というのが曲者なのです。所謂、完璧主義者に多い傾向ですが「結果を出さなければいけない」「人は元気でハツラツとしているべきだ」という思考が強く、真面目で、常に周りの期待に応えようと必死になっています。つまり"なりたい自分"とは【周囲が求めてくる自身の理想像】であって、本当に表現したい現実の自分は、無理やり心の奥深くに押しやっている状態です。
その理想と現実のギャップを埋めるため、薬物を使用するのです。薬物を使用すればドーパミンが分泌され、勉強や仕事がはかどり、結果が出てしまうことがあります。そうなれば、もう薬物を使わないわけにはいきません。こうして「もっと頑張らなくっちゃ!」と、周囲が求める自分を追い求めた結果、依存性になってしまうのです。
タイプ③先天性
生まれつきドーパミンを出す機能の弱い人もいます。たとえ幼少期にたくさん褒められていたとしても、天然のドーパミンによる快楽をあまり体験しないまま成長することになります。このような人が薬物による強烈な快感を体験してしまうと、依存症になってしまいます。
あくまで一例ですが、ADHDの方は先天的にドーパミンやノルアドレリンの機能が低下しているため、薬物依存症を併発しやすいといわれています。
いかがでしょうか?
先程の『快楽主義者』などのイメージと、掛け離れている現実に気づいていただけたでしょうか?
登録販売者として彼らと接する際は、こうった背景を理解したうえで、濫用防止コミュニケーションに努めましょう。
絶対やってはいけないコミュニケーション

では、実際のコミュニケーションはどうあるべきなのか...を解説する前に、必ず覚えておかなければいけないことがあります。
それは『絶対に説教をしてはいけない』ということです。
これを聞いて内心ドキッとした登録販売者の方もいるのではないでしょうか。
安心してください。何を隠そう、私もその1人でした。偉そうに今こうして皆さまにご案内していますが、私も登録販売者になって2~3年ぐらいは、濫用が疑われる方に対して「こんなことを続けていたら、副作用で命に関わりますよ!」と、薬物の害をひたすら声高に伝えていました。
もちろん悪気はありません。100%親切心ですし、資格者として当然の仕事です。しかし冒頭にも触れた通り、正論で人の心は動きません。ましてや前述したように、依存症になる背景には本人にはどうしようもないことも含まれています。そんな人たちに説教などあってはならないですし、むしろ逆効果になってしまいます。
例えば、あなたがダイエットを頑張っているとしましょう。仕事の休憩時間に、ついつい甘いものを食べてしまいました。そこへ急にやってきた見知らぬ人物が「そんなもんばっか食ってるから太るんだよ!」と説教してきた場面をイメージして下さい。あなたはその人に好意を抱き、言うことを聞こうと思うでしょうか?無論、そんなはずもなく、むしろ一生憎み続ける対象者リストに入ることでしょう。医学的に正しいことが、必ずしも正しいわけではないのです。
実際に心理学の世界では【好意の互恵性】といって、誰もが自分のことを好きな人を好きになり、自分のことを嫌いな人は嫌いになる、という心理現象が存在します。初対面の状態で説教をされ、まったく自分のことを受け入れてくれない登録販売者に対し、誰が聞く耳を持ってくれるでしょうか。
さらに付け加えるならば、依存症は誰でも陥ってしまう可能性の高いものである、という事実をぜひ覚えておいて下さい。これを聞いて「自分は大丈夫だ」と思いますよね。では皆さまの中に、学生の頃、夏休みの宿題を後回しにして親に怒られ、半泣きになりながら最終日ギリギリに片付けた記憶はないでしょうか?
あるいは、スマホのゲームに夢中になるあまり、日常では考えられないような金額を課金した経験はどうでしょう?先程例にあげたダイエットの話も同様です。
これらに共通しているのは
「ダメなのは分かってるんだけど、つい...」
という感情です。
依存症患者の心の中も同じです。我々と何一つ変わらないのです。それに我々に説教などされなくとも、彼らは自分自身の身をもって離脱症状の辛さを、誰よりもよく知っています。
我々がやるべきことは、説教などではなく、やめ方を伝えることであると私は感じています。
とるべき濫用防止コミュニケーション

お待たせしました。
ここからは、心理学的に正しいコミュニケーションをお伝えします。
実際のメンタルヘルスクリニックでも使われるテクニックも交えてお伝えします。
その①ビラ配り
まず全員にやって欲しいことは、今回の法改正を"見える化"することです。
【ビジュアライジング】といって、絵などを使い図示しながらコミュニケーションをとることで、難しい概念でも頭に入りやすくなります。本部から配布されているものでも何でも構いませんが、おすすめは、自分たちで内容を簡潔にまとめたビラを作成し、お客様全員に配っていくことです。そうすることで、お客様は前提知識を持って来店するようになるので、円滑なコミュニケーションが期待できるようになります。
レジではそのビラを示しながら、今回の法改正の趣旨を説明し、理解を求めましょう。
その②BATHE法(ベイズ)
理解を求めたら、次のステップへ進みます。
ただ単に濫用のおそれのある医薬品を1個までにしたところで、何も解決はしていません。
できれば代替薬へ変更したいものです。(コデインリン酸塩をハチミツへ等)
BATHE(ベイズ)とは、簡単な精神療法のことです。海外によくある、それぞれの頭文字をとって名付けられる方法ですが、登録販売者にも有用なエッセンスが詰まっていますので、それぞれご紹介します。
- ・Background(背景)
どんなことがありました? - ・Affect(感情)
どう感じましたか? - ・Trouble(困っていること)
1番困っていることはなんですか? - ・Handling(対処法)
どうやって対処していますか? - ・Empathy(共感)
それは大変でしたね。
この流れでお客様、患者様に問診しながら会話していきましょう。
参考文献: The Fifteen Minute Hour: Efficient and Effective Patient-Centered Consultation Skills, Sixth Edition( Marian R. Stuart (著), Joseph A. Lieberman (著))その③説得力が増す話し
最終段階です。
いくらBATHE法が有用でも、コミュニケーション力が低く見える話し方をしてしまっては台無しです。というわけで、科学的に正しい説得力が増す話し方を下記にまとめますので、やりやすいものから実践していきましょう。
●会話の始めに声のトーンを落とす
イリノイ大学などの研究で、191人の大学生をいくつかのグループに分けて、「月面で災害が起こった場合に最も必要な装備は何か?」というテーマで議論してもらいました。その際に全員の議論を記録し「説得力がある人たちはどんなしゃべり方をしているのか?」を調べたわけです。
その結果...
男女ともに、会話のスタート時に声のトーンを下げた方が、自分の意見を通す確率が高くなり、周囲の人からも「この人は影響力がある」と評価された。
ということが分かっています。
これを聞くと「じゃあ声が高い人はダメじゃん」と思う方もいると思いますが、「地声が高い人でも、議論のなかで声を低くすれば説得力が出る」ということも同時に分かったそうなので、意図的に声のトーンを下げる戦略が有効です。
●ジェスチャーを加える
ジェスチャーを加えることで説得力は格段に上がります。真面目で小難しい話ほど、その必要性は上がります。一番分かりやすい例は、なんといってもAppleのスティーブ・ジョブズでしょう。彼がiPhoneを紹介しているシーンを思い出してください。常に身振り手振りでプレゼンテーションをしている姿が思い起こされるはずです。
その結果、世界中の人を納得させることに成功し、日本でも使っていない人を見つけるのが困難なほど大流行しています。つまり我々は「ジョブズの説得に応じた」ということになります。
ヒトは非言語的コミュニケーションをベースにして、相手の言葉を解釈しています。
簡単に言ってしまうと、身振り手振りなく会話をしてしまうと"思ってないやろ感"が伝わってしまい、話を聞いてもらえないのです。
ベラーマイン大学の研究で【ジェスチャーを使って話す人は頭がよく見える】という結果が出ており、登録販売者が説得する際には必須のテクニックです。
●自分のいいところを書き出す
冒頭に触れた「怖くて言いたいことが言えない」という人も忘れてはいけませんね。
結局、言いたいことが言えないヒトは『嫌われたらどうしよう』『怒られたら嫌だな』『なんだか申し訳ない気がする』というプレッシャーに負けています。つまり、日頃からプレッシャーに強くなるようメンタルを鍛える必要があるのです。そこで有用なのが書き出しのテクニックです。
トロント大学の実験で、『プレッシャーにうまく交渉に対処する方法』を調べた結果【自分が持っている能力の中で、交渉に使えそうなものを5分間だけ紙に書き出して下さい】と事前に指示されたグループの被験者は、プレッシャーに負けることなく、交渉スキルが上昇したそうです。
プレッシャーに弱い人は、自分に対する期待値が低いため、たとえ自分に交渉力があったとしても、それに気づきません。そこで、事前に自分のいいところを確認することで心のモヤが晴れ、自分の本来持っている武器を交渉に使えるようになるのです。
手軽に誰でもできるので、ぜひやってみてください。
さいごに

いかがでしたか?
何か1つでもいいので、試しやすいものから試していってください。
とはいえ、勘違いして欲しくないことが一つだけあります。
それは「一人で対応し過ぎないこと」です。濫用防止コミュニケーションは体力と精神力の疲弊がともなう、とても重いタスクです。場合によっては、ストレスに押しつぶされてしまうことも珍しくありません。
そうなっては本末転倒ですので、困った時には周りの同僚や先輩に助けを求めたり、SNSなどのネットを介したコミュニティに頼ってみるのも必要であると思います。
もし実際の声のトーンや表情の作り方など、さらに深堀した知識を得たい方は、私の凡人賢者アカデミー内の動画にて解説しておりますので、プロフィール欄からチェックしてみてください。一緒に頑張りましょう。

執筆者:ヤマナオ(登録販売者)
YouTube【ヤマナオ会議室】のチャンネル登録者数1.4万人。
DMMオンラインサロン【凡人賢者アカデミー】のオーナー。
登録販売者として、通算10年以上従事した経験を基に「医学」「心理学」「仕事術」をメインテーマとし、情報発信を行っている。
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