ドラッグストアで働く登録販売者の漢方服薬指導Q&A|小児・高齢者・妊婦の注意点を解説

漢方薬を選ぶ際にもっとも重要なことは「証」の見極めですが、それ以外にも注意点が多数あります。例えば、小児では漢方薬の味が苦手な場合もありますし、一般的に高齢者は体力がなく、肝臓・腎臓などの生理機能が衰えているケースもあります。
このコラムでは、漢方薬の選び方や服薬指導などについて、ドラッグストアで働く登録販売者からの「よくある質問」にお答えしていきます。業務での商品選びや服薬指導に悩む登録販売者の方や、登録販売者試験において薬の成分の分野に苦戦している方は、実務をイメージしながらの勉強に役立ててください。
【この記事で得られること】
- 子供・高齢者・妊婦のお客さまについては、年齢や体質に合わせた味や剤形、含まれる生薬に注意して商品を選ぶようにする
- 漢方薬と西洋薬との併用や、食品アレルギーのあるお客さまの漢方薬利用については、特定の生薬による副作用やアレルギー反応が生じる可能性があるため、慎重な対応が求められる。
目次
- ・ドラッグストアで働く登録販売者の基本対応!小児・高齢者などに関する漢方薬の質問
- ・登録販売者のスキルアップ!漢方薬の選び方に関する質問
- ・まとめ|登録販売者は漢方薬の服薬指導も適切にできるようになろう!
ドラッグストアで働く登録販売者の基本対応!小児・高齢者などに関する漢方薬の質問

ここでは、小児、高齢者、妊婦など、特別な配慮が必要なお客さまに関する、漢方薬のよくある質問にお答えします。
Q.小児でも服用しやすい漢方薬はありますか?
A.甘味のある漢方薬や、子供向けの味・剤形になっている商品を選びます。また、「おくすり飲めたね」などのゼリー状オブラートの使用も検討してください。
【解説】
漢方薬は苦味のあるものも多いですが、子供の腹痛や疲労倦怠に使われる「小建中湯(しょうけんちゅうとう)」、のどの腫れや痛みに使われる「桔梗湯(ききょうとう)」などは、甘い味のする漢方薬です。
また、子供向けの味や剤形になっている商品としては、次のようなものがあります。
- 葛根湯KIDS:風邪のひき始めに用いられる「葛根湯(かっこんとう)」配合。4才以上服用可。黒糖風味の顆粒剤で、そのまま水で服用するか、白湯に溶かして服用する
- 子供咳止め漢方ゼリー:咳の出る風邪などに用いられる「五虎湯(ごことう)」配合。2才以上服用可。ぶどう風味のゼリー状の剤形である
- ツムラ漢方トローチ桔梗湯:のどの腫れや痛みに使われる「桔梗湯」配合。5才以上服用可。かまずにゆっくり口の中で溶かして服用する
さらに、漢方薬はチョコ風味のものと合わせると飲みやすくなるため、チョコ風味の「おくすり飲めたね」や、市販のチョコレートシロップ、チョコレートクリーム、チョコレートアイスなどを活用するのもおすすめです。
Q.高齢者に注意すべき漢方薬はありますか?
A.高齢者は体力が落ちている場合も多く、「実証向け」の漢方薬は不適切な場合があります。また、カンゾウ・マオウ・ダイオウといった注意すべき生薬を含む漢方薬では、副作用が現れやすいため注意が必要です。
【解説】
漢方薬を選ぶ際、お客さまの体力が充実しているか(実証)、それとも体力虚弱か(虚証)を判断することは非常に重要です。証に合わない漢方薬を使ってしまうと、効果が出ないばかりか、副作用が生じやすくなります。
体力の有無を確認する際は、お客さまの「体格」や「声の大きさ」、「胃腸の強さ(胃痛や下痢を起こしやすいか)」などを確認してください。痩せている、声が小さい、胃腸が弱いといった特徴のある方は、虚証である可能性が高く、実証向けの漢方薬にはとくに注意が必要です。
体力が虚弱な傾向がある人の特徴
【見た目の印象】
- 明らかに痩せている
- 顔色が青白い
- 声が小さい
【胃腸の丈夫さ】
-
- 胃:
- 胃が痛くなりやすい、もたれやすいなど、トラブルを毎月のように感じる場合
-
- 腸:
- 腹痛や軟便、下痢など、お腹が弱いと感じられる場合
実証向けの漢方薬としては、麻黄湯(まおうとう)、葛根湯、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)、大柴胡湯(だいさいことう)などがあります。とくに「葛根湯」は高齢者にも人気の漢方薬ですが、効能効果に「体力中等度以上」と記載があり、実証向けの漢方薬です。お客さまに証を確認すると、桂枝湯(けいしとう)や香蘇散(こうそさん)などの虚証向けの風邪の漢方薬をご案内した方がよい場合もあるので、注意してください。
また、カンゾウ・マオウ・ダイオウなどの生薬を含む漢方薬は副作用を起こしやすいため、これらが配合された漢方薬を高齢者にすすめる際は、服薬指導時に「少しでも体調の異変を感じたら、漢方薬の使用を中止して、かかりつけ医や薬剤師、もしくは私たちに相談してくださいね」とお伝えしましょう。
【カンゾウ、マオウ、ダイオウの特徴】
含有成分 | 主作用 | 副作用 | 配合されている漢方薬の例 | |
---|---|---|---|---|
カンゾウ | グリチルリチン酸 | 抗炎症作用 | 偽アルドステロン症 | 芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、葛根湯 |
マオウ | アドレナリン作動成分 | 気管支拡張作用 | 血圧上昇、動悸、頻脈 | 麻黄湯、葛根湯 |
ダイオウ | センノシド | 瀉下作用 | 腹痛、下痢、食欲不振 | 大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)、防風通聖散 |
Q.妊婦に葛根湯を使ってもよいですか?
A.一般的には不向きとされます。
なぜなら、妊婦は基本的に「虚証」として対応するからです。また、過度な発汗や瀉下、利尿を避ける必要があることから、一般的に、発汗を促進させる「葛根湯」は不向きとされます。ただし、医師の判断によっては葛根湯が処方されることもあります。
【解説】
発汗や瀉下、利尿作用のある生薬としては、次のようなものがあります。妊娠中のお客さまに対しては、これらの生薬が含まれる漢方薬にとくに注意が必要です。
- 発汗作用のある生薬:マオウなど
- 瀉下作用のある生薬:ダイオウなど
- 利尿作用のある生薬:ブシ、ボウショウなど
登録販売者のスキルアップ!漢方薬の選び方に関する質問

次は、漢方薬との併用やアレルギーのある方など、漢方薬を選ぶ際の注意点に関する質問にお答えします。漢方薬の服薬指導の際にもお役立てください。
Q.漢方薬は西洋薬と併用してもよいですか?
A.併用できる組み合わせと、できない組み合わせがあります。
併用可否を確認したい2つの商品について、各添付文書の「してはいけないこと」「相談すること」を確認します。ここに薬の併用に関して何も記載がなければ、基本的に併用は問題ないと判断できます。ただし、添付文書に併用について何も記載がない場合であっても、類似の成分が重複している場合、併用は避けた方がよいでしょう。
【解説】
例えば、葛根湯には「マオウ」や「カンゾウ」などの生薬が含まれます。この場合、アドレナリン作動成分やグリチルリチン酸が配合された西洋薬を一緒に使うと副作用が生じやすくなるため、併用は避けた方がよいでしょう。
どうしても一緒に使いたいというご要望がある場合、服薬指導の際に、それら2剤の用法用量の欄に記載のある「服用間隔」を確認し、「1つ目の薬を服用後、〇時間空けて次の薬を飲んでください。」と具体的な服用の仕方を伝えると親切ですよ。
Q.食品アレルギーがあるお客さまに漢方薬を選ぶ場合、注意すべきことはありますか?
A.漢方薬に含まれる生薬が、お客さまのアレルギー物質に該当する可能性もあります。お客さまにご希望の漢方薬がある場合、その漢方薬メーカーの「お客さま相談室」に問い合わせて確認するのもよいでしょう。また、対応に自信がない場合は無理せずに、「西洋薬での対応」や「薬剤師への相談」といった方法を検討してください。
【解説】
例えば、小麦アレルギーの方では「甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)」、米アレルギーの方では「小建中湯」、「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」、さといもアレルギーの方では「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」などに注意する必要があります。予想外の漢方薬が禁忌のこともあるので、くれぐれも慎重に対応しましょう。
漢方薬の特徴や覚え方についてさらに詳しく知りたい方は、ぜひ以下のコラムも参考にしてください。
登録販売者は漢方も覚えよう!漢方薬の特徴・覚え方・求人例を解説
まとめ|登録販売者は漢方薬の服薬指導も適切にできるようになろう!
漢方薬を選ぶ時は「証」の見極めが重要ですが、それに少しずつ慣れてきたら、お客さまの年齢やアレルギーなど、一人ひとりの状況に合わせた漢方薬選びもできるようになりましょう。とくに漢方薬の併用可否の判断については、いざという時にあわてないよう、イメージトレーニングをおこなっておいてください。
ドラッグストアではお客さま対応に長い時間をかけるのが難しい場面も多いので、対応の流れを頭に入れておくことでスムーズに服薬指導ができるようになりますよ。
登録販売者試験に臨む方にとっては、生薬・漢方薬に関する内容を含む第3章はつまずきやすい章です。ぜひ本記事を参考に、実務をイメージしながら勉強に取り組んでみましょう。第3章についてさらに詳しく知りたい方は、以下のコラムも参考にしてください。
【登録販売者試験対策】第3章攻略が合格へのカギ!薬の成分はこうやって覚えよう
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執筆者:村松 早織(薬剤師・登録販売者講師)
株式会社東京マキア 代表取締役
登録販売者や受験生向けの講義を中心に事業を展開
X(旧:Twitter)、YouTube等のSNSでは、のべ2万人を超えるフォロワー・チャンネル登録者に向けて、OTC(一般用医薬品)についての情報発信をおこなっている。
- ■著書
- ・医薬品暗記帳 医薬品登録販売者試験絶対合格! 「試験問題作成に関する手引き 第3章」徹底攻略(金芳堂)
- ・薬機法暗記帳 医薬品登録販売者試験絶対合格! 「試験問題作成に関する手引き 第4章」(金芳堂)
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【新着】登録販売者のための業界コラム
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